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コロナ禍における特別支援教育! 埼玉大学教職大学院生のインタビュー

1 はじめに

本記事は、特別支援学校で中学部の担任をしながら、教職大学院で「子どもたちの主体的な学習」について研究されている園田力斗先生に、2020年9月19日にインタビューを行い、それを編集・記事化したものです。

今回のインタビューでは、園田先生がされている教職大学院での研究と、新型コロナウイルスの影響による休校中に行った、動画の配信とプリントの配布についてお聞きしました。

2 インタビュー

大学院での研究

──教職大学院に進学したきっかけは何だったのでしょうか。

教職大学院に進学する以前から、特別支援学校の教員として授業をしているときに「本当に生徒のためになる授業ができているのだろうか」ということを考えてきました。そのような中でアドラー心理学の本に出会い、その本にあった「人はその人が意味づけした世界に生きている」という言葉に感銘を受けました。その言葉を教員目線で捉え直し、人はその人の価値観の中で生きており、私が「これを知っておいた方が良い、しておいた方が良い」と感じるものよりも、生徒の願いや思いを引き出してあげて、それに沿った形で子どもたちの学びを計画していくことが重要ではないか、と考えるようになりました。そこで生徒の願いや思いから授業を考えていくという学習の発想の仕方を検証したいと思い、教職大学院へ進学しました。

──教職大学院ではどのような研究をされていますか。

教職大学院では、特別支援学校の子どもたちが自分自身の願いや思いから主体的に学習に臨める方法について研究しています。アメリカのIEP[*1]など、諸外国において生徒を中心に捉える学習計画の在り方は報告されていました。しかし、国の制度などが異なるため、日本の教育システムにうまく取り入れることが難しかったように感じています。日本の場合、学習計画から授業実践、評価までを教員が担っているため、授業の見直し・改善だけでは、方法論的な解決となってしまいます。そこで、個別の教育支援計画、個別の指導計画、授業という流れを授業システムとしてとらえる方略的な解決を目指すことが必要です。そこで、私は現状の授業システムに、「生活マップと学びのサポートシート」という生徒自身を中心としてとらえるためのツールを加え、授業システム全体としての在り方を提言しています。

[*1] IEPとはIndividualized Education Programの略で、アメリカにおける一人ひとりの個人に対応した学習計画を指す言葉。

大学院での経験と新型コロナウイルス

──教職大学院での研究や経験がコロナ禍で活きた点はありますか。

教職大学院では演習などで相互に意見を交わす授業が多く、人に分かりやすく伝えるためのスキルを獲得できたように思います。そのスキルを、授業動画を作る際には活かすことができたのではないかと思います。また、コロナ禍においては「生徒にとっての学びとは」という本質的な問題に直面しました。生徒にアクセスできる方法に限りがある中で、学校と生徒、学校と家庭、学びと生徒などそれぞれを繋ぐために何ができるのかをスピード感を持って考えなければなりませんでした。しかし、教職大学院の理念である理論と実践の往還という習慣が身についていたため、学級の先生方[*2]にも協力を得ながら、初めての事態にもトライ&エラーで着実に対応することができました。

[*2] 特別支援学校では、複数の教員によるティームティーチングが基本となっている。

コロナ禍での取り組み

オンラインでの動画配信とプリント配布

──新型コロナウイルスによる休校期間中はオンラインでの動画の配信やプリントの配布を行っていたということですが、そうしたことを始めたきっかけは何だったのでしょうか。

特別支援学校は通常校とは異なり、児童生徒に合わせて教員が一年間で行う学習内容をプランニングします。そうした点から通常の登校が行われない中では、実態把握が遅れ、必然的に学習計画とその後の対応が遅れてしまいました。また、児童生徒にとっては学校生活全体が学習の場であるため、なんとか学校と生徒とのつながりを作っておきたいという思いがあり、担任としてできる範囲が動画配信と郵送だったので、動画配信とプリント配布の二つを行うことになりました。

──動画やプリントを作成するうえで工夫した点はありますか。

まず意識したのは、生徒に合わせて必ず解ける問題にしたというところです。というのは、休校期間中は新たな分野を学習するというよりは、現状の学習内容を広げたりつなげたりするのが目的だったからです。そのため、課題のレベルとしては難しくないものを作成しました。また、私のクラスは小学5年生の算数から数字の5までを数えることが課題になっている生徒がいます。そうした生徒たちが1つの学習グループに所属しているので、当然同じ学習課題では効果的とは言えません。そのため、生徒によってプリントの仕様を変えました。たとえば、「植物に必要な要素は何ですか」、という課題で草の絵に必要なものを加えていくのですが、「絵を描く」、「太陽や土、水などと文字が書いてあるプリントから選んで切り貼りする」、「シールを剝がして貼る」というような形にしました。動画に関しては、初めに目的を大きく示して、本日の学習内容の流れを明確にし、動画の見通しをもてるようにしました。終わりには、次回の学習内容を示すことで、次回への期待感と見通しを持てるように配慮しました。また、一方通行にならないように、動画で問題を出した際には、「ここで動画ストップ」のようなテロップを入れたり、「答えが出たら再生してね」というテロップを入れたりする工夫をすることで、生徒が思考する時間を意図的に設定し、メリハリのある内容になるように配慮しました。

──オンラインでの活動の中で今後も活用していきたいと思うものはありますか。

今までは紙媒体でしか宿題が出せなかったのですが、Google Classroomが使えるようになると、PowerPointなどで宿題を出せるようになります。今回PowerPointを使って動画を配信してみて、アニメーションを使って視覚的に物や数字の移動を表せることの有効性を感じました。本校のような肢体不自由の生徒がいる学校では、紙に書くこと、磁石を動かすことなどの操作に困難があるために、教科の中で求める思考まで学習を深めることが難しい場面が見られました。しかし、PowerPointのアニメーションを効果的に使用することによって生徒たちが思考を整理し、新しい課題をクリアすることができる様子を見ることができました。こうしたことからオンライン教材としてPowerPointでできることの可能性をとても感じました。今までプリントで宿題を出すことは難しいと思っていた内容でもオンラインなら可能かもしれない、と感じました。

また、私のクラスでは畑で野菜を育てて、そのことを通して学習を行っているのですが、これまでだと夏休み期間は野菜の継続的な成長の様子を見ることはできず、学習が継続されにくくなっていました。しかし、オンラインでの学習ができれば、夏休み期間中に畑の様子を動画に撮って子どもたちに配信することができ、継続的な学習が可能になります。学習環境によって学びの質が変化しやすい児童生徒であるがゆえに、学校が子どもたちにアクセスできる方法が増えたことのメリットは大きいと考えています。動画による学習が定着すれば、繰り返しの学習が必要な内容や心身を整えるための習慣を身につける内容についてもアプローチしやすくなるのでは、と思いました。これも今回の期間で感じた大きな可能性です。

さいごに

──コロナ禍が収束していく中、どのような実践を行っていきたいですか。またはどのような実践が必要だと思いますか。

今までと異なる生活習慣で生徒を迎えなければといけないというのはもちろん、自衛の意味で生徒に手洗いうがいを正しくやってもらわないといけないので、保健分野や生活面での指導は必要だと思います。知識が十分ではない状態では、体調が少し悪かったり、クーラーで寒く感じたりして、新型コロナウイルスに感染したかもしれないと不安を覚える生徒もいました。感染症に対する恐怖心を煽るような指導ではなく、正しい予防策の指導と教員と児童生徒が安心して過ごすことのできる環境作りが何より大事だと思います。また、児童生徒を預けてくださる保護者の皆様に対する説明も丁寧に行っていく必要もあるかと思います。

新型コロナウイルスによって行事がなくなり、学校生活のメリハリといいますか……楽しみがなくなってしまわないか心配です。そのため、学年全体や学校全体の活動をオンライン環境も活用しながら工夫して、違う形で全体のつながりを作っていかないといけないと思います。

そして、コロナ禍での実践をきっかけとして、学習方法や会議の在り方などは見直す必要があると思います。これからも新型コロナウイルス流行前と同じ方法で授業実践できるとは思いませんし、今回のことでオンラインでできることの可能性を感じました。今回の対応を振り返ることで、今後学校教育が見直していかなければならないことが見えてくると思います。従来より円滑な宿題のやりとりや繰り返しの学習、または多種多様な働き方に対応した会議など、オンラインでできることが分かれば、逆にオンラインでできない学校現場の役割を再認識することにも繋がります。

また、オンラインで様々なことを行ったことで、保護者、そして教員、学校のメディアリテラシーのレベルが分かりました。こうした情報をきちんと集めて、整理していけば、もうワンランク上の教育活動が行えるのではないかと思っています。

3 園田力斗先生のプロフィール

順天堂大学卒業。埼玉県立和光特別支援学校教諭。また、埼玉大学大学院教育学研究科専門職学位過程教職実践専攻発達臨床支援高度化コースに在籍。現在教員8年目。(2020年9月5日現在)

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5 編集後記

休校期間中に生徒の学びを継続するための現場の教員の奮闘、取り組みの一部をお聞きすることができました。オンラインだからできないことばかりではなく、今後にも活きるものがあり、特別支援教育のみならず、学校教育のあり方を見直すきっかけになったのではないかと感じました。
(編集・文責:EDUPEDIA編集部・木部裕太)

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