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【コロナ禍の子どもの教育と教員の働き方改革を問う】講演録

1 はじめに

この記事は2020年7月18日に開催された「コロナ禍の子どもの教育と教員の働き方改革を問う」というオンラインイベントの講演をまとめたものです。本イベントには、名古屋大学准教授の内田良氏、現職高校教員の斉藤ひでみ氏、神奈川過労死等を考える家族の会代表の工藤祥子氏、弁護士の嶋﨑量氏が登壇されました。新型コロナウイルス感染拡大の状況下において、変化する子どもの学習のしかたや、虐げられている教員の働き方改革の現状についてまとめたものとなっています。

2 内田良氏の講演

学校生活におけるリスクについて

新型コロナウイルス感染拡大の状況下において、私たちは日常でコロナウイルスに感染するかもしれないというリスクを抱えて生活するようになりました。そこで考えてみると、日常生活の中にリスクはいくらでもあります。リスクは学校の中にもたくさんあり、そのなかに感染症というリスクが増えました。このリスクを回避するために、教員には消毒作業が課されました。教員は普段から激務に追われていますが、それにコロナウイルス対策が加わり、教員の負荷がぐっと増えてしまいました。また、夏は感染症対策とは相性の悪い熱中症対策もしなければなりません。熱中症に関しては、実は学校管理下で毎年2人くらいの子どもが亡くなっている状況にあります。

このように熱中症対策も加わってくると、リスク回避のためのリソースをどこに振り分けるかというまた別の問題が生じてきます。リソースを感染症だけに振り分けたら子どもは他のことで事故にあってしまうかもしれません。教員には、時間内に終わらせられないほど多くの仕事があるので、優先順位をつけて仕事を捌かなければなりません。

学校の校則について

いろいろな自治体に「4時禁ルール」というものがあります。これは生徒が学校から早く帰ることができる日でも16時までは家にいなければならないというものです。この校則には、学校が子どもの私生活にどこまで介入するのかという問題が秘められています。学校の管理下ではない下校後の子どもの外出を制限していることになるからです。この校則が作られた理由として、学校が早く終わった日に近所のファミリーレストランやファストフード店に子どもがいると、お店や近所の人が学校に電話を掛けてくる現状があります。「ちゃんと指導してほしい」と批判を受け、教員はそのお店や近所の人のもとに謝りに行くのです。

もちろん道義的な責任や何か問題があったときに注意をするのは必要ですが、学校を出たその時点で、その子どもは家庭や地域の子どもになっているので、学校が全部の責任を負う必要はないはずなのです。しかし、現代は「学校依存社会」となっており、私たちが学校にいろいろなことを求めすぎています。保護者や地域住民全体との関係が、人権侵害のように思える校則問題を引き起こしており、大きな問題となっています。

教育は無限・教師は有限

教育のやり方や可能性はたしかに無限です。しかし、教育を施すリソースとなる教員は有限です。これから、大きくなってしまった教員の仕事をどうするのかという問題があります。それを解決する策として、一つは教員を増やすということ、これは行政に取り組んでもらうしかありません。そして二つ目は、業務の量そのものを減らすということ、これはすぐにできることです。それはコロナ禍で見えてきたものでもあります。コロナ禍でも、とりあえず授業はやらなければなりません。子どもの健康面を考えると、1年間のプログラムを10カ月に詰め込むという主張に積極的になることはできませんが、授業は学校という場において必須です。しかし、それ以外のことは必ずしも必要ではありません。卒業式の練習なしで本番も短縮して実施した例や、部活動の停止・全国大会の中止などがありました。たとえば、卒業式で私たち大人が喜ぶべきは、子どもがきちんとした態度で式に出席することではなく、卒業できるということなので、新型コロナウイルスが流行する前の形態で卒業式が行われなくてもよいのです。このように、大人が喜ぶハードルを下げながら教員の業務を減らしていくことが必要です。

他にも、教員の働き方改革を考えるとたくさんのいらない仕事が見つかります。しかし、子どものためを考えると仕事が増えてきます。今は子どものために優先順位をつけて何かを諦めるという過去に経験したことのない段階に突入しています。そうしないと、教員が疲弊してしまうからです。教員の疲弊は子どもにも伝わり、子ども自身にもやることが増え、いっぱいいっぱいになってしまいます。子どもも教員もゆとりをもった状態で、初めて授業を中心とした学校づくりが実現します。

3 斉藤ひでみ氏の講演

コロナ禍で実際に増えた具体的な職務

私は本イベントの登壇者の中で唯一現職の教員なので、現場のお話を中心にしていけたらと思っています。まず、コロナウイルスの影響で教員の働き方がどう変わったかというと負担が純増したと感じています。授業以外にやらないといけないことがたくさん増えました。子どもが学校に入る前に体温を測ったり、体調のチェックをしたり、手を洗うよう促したりしてから、教室に入れます。子どもが登校する前に校舎の窓をすべて開け、扇風機を回して感染対策を万全にします。そして、昼休みと放課後には消毒作業をしなければなりません。さらに緊急対応しなければならないことが日常茶飯事です。例えば、教育委員会でコロナウイルス対策の新方針が決まった場合に話し合う必要があります。また、身近に感染者が出た場合には、教員で集まって協議しています。私たちは常に緊張状態を強いられています。

オンライン授業の問題について

岐阜県では、4月(2020年)から全高校で双方向型のオンライン授業を実施することになりました。双方向型の授業をしていたのは全国の学校のうち5%と言いますが、その5%に岐阜県の全ての高校が入っていたということになります。実際にオンライン授業をやってみて、オンライン授業をするならば、双方向型が必要不可欠と感じました。しかし、オンライン授業というのは我々教員にとって相当な負担となるという問題もありました。まず、教員たちがオンライン授業に慣れていなかったので、普段の授業準備の4倍の時間がかかるほど苦労しました。また、通信の準備やトラブル対応、トラブルを未然に防ぐ作業もすべて教員が行いました。休校期間中に通常の授業の代わりとして双方向型の授業を実施することにはまだ対応できましたが、通常授業と並行してハイブリッド型でやってくれと言われたら倒れる教員が増えると感じています。ハイブリッド型は実現したら素晴らしいですが、これまで数十年間教員の業務が増やされてきていた末に、さらにオンライン授業の実践というかなりの負担が課されていくと、一層教員が疲弊してしまいます。疲弊していく教員の姿を見ることで、学生の教員志望者が減ることにもつながるのではないかと思っています。ハイブリッド型を導入するのであれば、せめて教員やサポートスタッフを増やしたうえでやる必要があります。

休校期間中の子どもの成長について

一教員として、久しぶりに生徒に会ったときにすごく成長していると感じました。例えば、ちょっとしたことですが、「ゴミは感染拡大の一因となるので、自分で出したゴミはなるべく家に持ち帰ろう」と少し話をしただけで、一ヶ月以上経った今もゴミ箱にゴミが捨てられることはほとんどありません。今回のコロナ危機は、10代の生徒からすれば、自分の行動を選択できる年齢になってからは初めての危機ともいえます。私は阪神淡路大震災や東日本大震災を経験してきましたが、そのような体験を今の高校生はまだしていません。生徒にとって休校期間は、自分は何かできないだろうかと自分自身と向き合い、他者について考える時間になったのではないかと思っています。この3カ月の間、確かに学校での学びはストップし、教科書の未習範囲を学習しなければならない問題は残っていますが、代わりにものすごく大きな学びを得たと思います。私自身阪神淡路大震災で被災して一度死にかけた経験が今の自分を作っていると思います。今、子どもたちは人生をゆるがすくらいに大きな学びをしていると思います。改めて教員の方、保護者の方はこの期間に生徒が何かを失ったわけではないことを認識していただければと思います。ここから学んで、新しい時代の教育を考えていくべきで、教育に関する様々なことをコロナウイルスが流行する前に戻すのであれば、そのときに初めて私たちは大きな学びを失ったことになります。このコロナ禍での教育の変化を、教育がどうあるべきかみんなで考える契機にすべきではないかと思います。

4 工藤祥子氏の講演

過労死等から働き方改革について考える

休校明けの教員はコロナウイルス対策が加わって、さらに多忙となってストレスがたまり、その疲れがどっと出たり鬱になったりしているのではないかと思います。この時期(7月)に疲れが出て、過労死等を身近に感じる方も多いと思います。そこで、教員の過労死等について実態を話していきたいと思います。過労死等といわれると、過労死と考えられると思いますが、実際には過労死には至らないけれど、脳疾患を引き起こしたり、精神疾患を引き起こしたりすることを含めています。現在の教員の過労死の現状ですが、国の調査によると「公務上災害」と認定された人の数は、H22年からH27年で51人です。そのうち死亡した人、つまり過労死は28人です。また、特別支援学校の教員は5年間で精神疾患が1人しかいません。私は特別支援学校の教員の精神疾患の数がこれほど少ないことはないと思っています。国として正確な数字を把握していないために、なぜ過労死が起きたのか、防止するにはどうしたらよいのかについてきちんと検証されていないので、働き方改革が何を根拠にしたものなのか分かりません。

※イベント内の資料より

文部科学省の資料によると、年間の在職死亡者数は約400~500人です。そのすべてが過労死等ではないですが、いろいろなところで「実は私の同僚も過労死かもしれない」という話を聞きます。また、年間で精神疾患を理由に離職する人が700人、休職する人も5000人いるというのはかなり多い数だと思います。教員の負担を減らすために人を増やすのも大切ですが、人を辞めさせない、長期にわたり休ませない、死なせないという環境づくりがもっとも重要だと思っています。それは教員個人のためだけではなく、子どもたちのため、さらにみんなのためになることだと思います。

過労死等の原因

過労死等に至る原因には脳心疾患があり、その原因は長時間労働にあります。

また、精神疾患の原因は住民トラブルや職場内での人間関係、パワハラ、保護者とのトラブルです。教員が対人関係に困っているときに管理職がフォローする体制ができていれば、精神疾患は防げていたはずです。現在(2020年7月)、7時間授業になったり夏休みが短縮されたりして例年以上の激務となっているので、教員の皆さんに疲労がたまってきていると思います。悩んでいる教員の方も多いと思いますので、辛いときは辛いと声をあげてほしいです。頑張っている姿を子どもに見せるだけでなくて、教員の皆さんが弱音を見せることで子どもたちに「我慢しなくていい、辛いと言っていい」と伝えることもできます。教員の皆さんは辛い気持ちを抱え込まないで学校内やオンラインコミュニティで吐き出すことが大切です。

5 嶋﨑量氏の講演

教員が抱えている問題

私は弁護士として、そして親として参加しています。私がコロナ禍において問題だと感じたことは、単純に労働時間が増えているだけではなく、労働の質の面で負担が増大しているということです。

特に、一斉休校後の学校が再開したあとは、オンラインでの授業や感染対策など、新しい業務が増えるだけでなく、感染から子どもや教員自身の身を守ること、不慣れな業務が増加していることなど、時間的にも質的にも、負担が掛かっています。感染対策や労働者である教員の健康面、子どもに感染させてはいけないという重圧からくる教員の精神面、消毒作業など、教員がやるべきこと、抱えるべきこととして考えられないようなことを強いられている教員も多いです。

このように、教員には授業の質の面でも大きな負荷がかかっていて、メンタルヘルスの面でも過労死等の危険にさらされている状態です。

6 プロフィール

内田良氏


内田良(うちだ・りょう)
名古屋大学大学院教育発達科学研究科・准教授。博士(教育学)。
専門は教育社会学。著書に『ブラック部活動』(東洋館出版社)、『教師のブラック残業』(学陽書房,共編著)など。

斉藤ひでみ氏


斉藤ひでみ(さいとう・ひでみ)
岐阜県高等学校教諭。国に向け2度の署名活動を行い、教員の労働問題を訴えた(2019 Change maker award 受賞)。共著に『教師のブラック残業』(学陽書房)『迷走する教員の働き方改革』(岩波書店)。ドキュメンタリー「聖職のゆくえ」出演。参議院文教科学委員会参考人。本名は「西村祐二」。

工藤祥子氏


工藤祥子(くどう・さちこ)
神奈川過労死を考える家族の会代表。厚生労働省、過労死等防止対策推進協議会委員。中学校教員の夫を過労死で亡くし、過労死防止の観点から教職員の働き方改革に取り組む。共著に『教師のブラック残業』(学陽書房)、『学校をブラックから解放する』(学事出版)。ドキュメンタリー「聖職のゆくえ」出演。

嶋﨑量氏


嶋﨑量(しまさき・ちから)
弁護士、神奈川総合法律事務所所属。日本労働弁護団常任幹事、ブラック企業対策プロジェクト事務局長等。主に働く人や労働組合の権利を守るために活動している。著書に『5年たったら正社員!?−無期転換のためのワークルール』(旬報社)、共著に『迷走する教員の働き方改革」』(岩波書店)、『裁量労働制はなぜ危険か−『働き方改革』の闇』(岩波書店)、「ブラック企業のない社会へ」(岩波ブックレット)、「ドキュメント ブラック企業」(ちくま文庫)など。

7 関連記事

今回のイベント登壇者へのインタビュー記事

☆内田良氏の記事
【基調講演(内田良先生)】五月祭教育フォーラム2018『ブラック化する学校~多忙の影に潜むものとは~』
【インタビュー(内田良先生)】五月祭教育フォーラム2018『ブラック化する学校~多忙の影に潜むものとは~』

☆斉藤ひでみ氏の記事
教員の多忙化とは(斉藤ひでみ先生) その1

8 編集後記

コロナ禍で教員はさらに忙しくなっていると感じました。教員の働き方改革が叫ばれています。働き方改革が進むはずがないと感じておられる教員もいらっしゃるかもしれませんが、この記事から少しずつ働き方改革の進展がみられるのではないでしょうか。この記事が今の働き方改革の進展に興味のある教員の皆さんのお役に立てば幸いです。
(編集・文責:EDUPEDIA編集部 千葉菜穂美)

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