<大学入試を議論する>大学入試の共通テストにおいて記述式問題は必要か否か

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目次

1 はじめに

本記事は、教育をめぐる様々なテーマについて問いを設定し、EDUPEDIA編集委員が議論した内容をお届けする【Discussion of Student】の第1弾です。今回のテーマは「大学入学共通テスト」です。

第1回の大学入学共通テストは今年度(2020年度)の1月に予定通り実施されますが、英語民間試験や記述式導入の是非など、まだ制度設計上の議論は決着を見ていません。そこで、そもそも大学受験生が共通して受けるテストはどのようなテストが望ましいのか、具体的に議論を行っていきます。是非、それぞれの論点についてどう思うか考えながら読み進めてみてください。

2 取り扱う論点

以下の2つの問いを今回は扱いました。本記事は2つ目の論点について取り扱います。1つ目の論点での議論はこちらの記事に掲載されています。1つ目の論点は、「大学入試において共通テストは必要か否か」、2つ目の論点は「共通テスト(大学をまたがって行われるテスト)において記述式問題は必要か否か」と設定しました。

本記事の論点「共通テストにおいて記述式問題は必要か否か」においては、必要だと思う場合は、どのような評価をして必要だと判断したのか、記述式問題の限界にどう対処するのか、逆に必要だと思わない場合はその理由を提示する、という形式で行いました。

3 議論内容

ほとんどの編集委員が記述式試験は共通テストに必要ない、という意見を提出したので、その後はその結論がもし覆るとしたらどのような場合か、という形で議論が進んでいきました。それぞれの部分についてどのような意見が出たのかを紹介していきます。

共通テストにおいてなぜ記述式問題が必要でないと考えられるか

採点基準と出題の性質の問題

記述式問題では、採点基準を予め準備してそれに基づいて採点を行っていきます。字数が多くなり解答の自由度が高い問題になるほど、想定していた基準では判断のつかないような解答も多く出てくることになります。そのため、今回の共通テストのように50万人以上が受験しその採点を短期間で行わなければいけない場合は、ある要素に言及できれば何点、というような機械的な採点ができる少ない字数の問題しか出題することができなくなります[1]。そう考えると、受験生が自分で論理を組みそれを言語化して表現するというような当初の改革の理念に沿った記述式問題の出題は、難しいのではないでしょうか。

[*1] この性質は事前に行われた試行的なテストであるプレテストの問題においても指摘されていました。

採点の質の問題

記述式問題の採点では、マークシートの読み取りによって採点できる選択式問題と比較して格段にコストがかかります。そのため、大学入試センター内ではリソースが確保しきれず、ベネッセコーポレーションの子会社の学力評価研究機構への委託の形を取っての運営が想定されていました。しかし、採点に長けた人物を民間委託により数多く確保できるという想定は難しく、採点の質・公平性の担保に疑問が残っています

自己採点の難しさという問題

現状の制度では、受験生は共通テストの採点結果を見てから出願するのではなく、共通テストの解答を自己採点してその結果を基に出願する大学を決めるという流れになっています。したがって、自己採点を正確に行うことが難しい記述式問題では、自分の得点を推測することも難しく、出願先が選びにくくなってしまいます。

出題形式と問題の質の関連

今回の大学入試改革においては、選択式問題では思考力を問うことができない、ということが前提としてありました。しかし、選択式問題で思考力を全く問うことができないわけではありません。出題形式次第では、思考力を問うこともできますし、実際にセンター試験においても覚えた知識や公式を解答するような問題ばかりではなかったのではないでしょうか。

各大学の個別試験との役割分担

大学の多様化が進む今、個々の大学で行われる教育も幅広く、したがって大学によって求められる具体的な思考力や表現力の種類やレベルも異なると思われます。大学受験生に共通して記述式問題を課すよりは、個別試験においてより各大学の受験生の層にあった形で必要な能力を問うことが、より有効な選抜方法なのではないでしょうか。共通テストはあくまで個別試験より広範囲の科目において基礎的な内容を問う形で、双方の試験の役割分担を行うことが妥当だと考えられます。

どのような共通テストであれば記述式問題が効果的になると考えられるか

細かい1点の違いが大きな問題にならない形式

現在の共通テストは素点がそのまま個別の大学入試の合否判定に使われる形を取っており、1点の採点のブレの影響が非常に大きい形になっています。もしこれが、テスト結果が段階別に大まかに示される場合、採点のブレの問題はかなり小さい問題になるかもしれません。しかし、そのような段階別評価を大学が直接合否判定に用いる場合、定員を固定的にすることは難しくなってしまうので、私立大学も二次的な選抜を課さざるを得なくなるでしょう。言い換えれば、共通テストの結果を出願基準として機能させて、何らかの別の選抜の形を個別大学が行うことが必要になり、二重にコストがかかってしまうということにもなります。

採点の期間が長くても問題にならないような場合

採点の質の問題は、採点結果を短期間で大学に提出しなければいけない、という点が大きな要因になっています。採点の期間が長くかかっても問題ない形式を想定する場合、それは二次試験よりも何ヶ月か前に共通テストが行われる必要があります。その場合、カリキュラムがすべて終わっていないなかでの試験になることが想定されるので、試験範囲が狭まるか、もしくは高校教育のカリキュラムとは直接の関連性が低いような出題がなされることになるでしょう。また、試験のタイミングが前倒しになるということは、それだけ受験生の試験対策のための勉強の期間も前倒しにされることが予想され、高校生活にも大きな影響が出ることになるでしょう。

4 おわりに

ここまで、大学受験の共通テストにおいて記述式問題は必要か、について議論してきました。現状に近い制度設計を考えるのであれば導入することで得られるメリットはかかるコストよりも少ない、もし導入するのであれば抜本的な制度改正が必要、という形の結論に落ちつきました。今回の議論では細かな論理の根拠づけや事実確認が曖昧になってしまった部分もあるので、さらなる検討が必要だとも感じますが、この問題を考える上で考慮すべき論点を一通り扱うことはできたのではないか、と思っています。この記事を読んで、大学入試をめぐる問題を考える視点を獲得していただければ幸いです。

(編集・文責:EDUPEDIA編集部 新井理志)

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