文科省職員に聞く!教育に携わる仕事選び ~納得できるキャリア選択のために~ (第1回 教育と仕事フェス)

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目次

1 はじめに

この記事は、2020年6月14日にNPO法人ROJEが主催した「第1回教育と仕事フェス 〜今から考える教育キャリア〜」を取材し、内容を編集したものです。中村義勝さんは、2011年に文部科学省に入省し、現在は高等教育局の大学振興課にて、大学制度や入試関連の業務に従事していらっしゃいます。(2020年6月現在)

この講演では、中村さんが職業選択の軸を決める重要性や、自身が文部科学省に入省した経緯、文部科学省での実際の仕事についてお話しいただきました。「将来は教育に携わりたいけど、どんな職業に就くか迷っている……」という方や、「文部科学省に興味があるけど実際にどのような仕事をしているか分からない……」と悩んでいる方は、ぜひご一読ください。

2 職業選択の軸について

◎就職=マッチング!? 

私は就職はマッチングだと考えています。これは恋愛と同じで、企業のことをよく知って、自分も企業に入りたいと感じるとともに、企業も自分のことをよく知り選びたいと思う、両想いになることが就職だと思います。もちろん、キャリアアップをして、転職する生き方もありますが、ひとつの企業で何年、何十年と長い付き合いになることも多いと思います。

ただ、就職が一般的な恋愛と異なるのは、同時進行で進めて、選択と決断をしなければいけないことです。そのためには、自分の「軸」を持っておく必要があります。

◎軸を決める重要性

私もかつて文部科学省のリクルートを担当していましたが、官庁訪問の時に、「本当は教育をやりたかったんだけど、○○省の方が積極的に評価してくれている」と不安が募ってしまい、結果として他の省庁に行った学生、それでもブレずに文部科学省に入省した学生、あるいは逆に、夢かなわず民間企業に進んだけれども、あきらめきれずに再チャレンジをして晴れて入省した学生など、様々な学生を見てきました。国家公務員に限らず、就活をしていると、このように気持ちが揺れ動く場面というのはたくさんあると思います。そのとき自分で納得するためには、そして就職後に後悔しない選択をするためには、早いうちから自分の中に「やっぱり自分はこれがやりたいからここに入るんだ」という軸をもっておくことが大切だと思います。そうすることで、就活の最後の局面で自信をもって決断ができるうえに、自分の中で納得したキャリア選択ができると思います。

職業選択における軸は、例えば「社会のために貢献すべきだ」とか、「社会的成長を目指すべきだ」というような客観的な正解はありません。皆さんそれぞれにとっての、「何をしたいか」とか、「どうなりたいか」という主観が大事になってきます。

◎教育に携わる仕事

教育を取り巻く仕事は多岐にわたります。例えば学校の中でも、教員はもちろん、事務職員、用務員、司書など支援的な立ち位置の方もいます。学校の外には、私のような教育行政、学習塾や教材会社、模試を作成する民間企業などもあります。ましてや同じ「学校教員」であっても、異動が多い公立学校と、1つの学校に10年以上勤めることも少なくない私立学校の教員では、そのキャリアや職場環境は大きく異なります。

そもそも、教育に興味があったとしても、仕事としてかかわるのかどうかも考える必要があると思います。例えば、私の周りにも、比較的プライベートの時間がとりやすい大学職員をしながら、教育系NPOで活動する方もいます。普段のワークライフバランスが維持できる職業に就いて、プライベートで教育に携わる、という選択肢もあっていいと思います。

また、教育行政に携わりたいと考えていたとしても、「ファーストキャリアとして選ぶべきか」という点も考えてよいと思います。教員経験のある方が、セカンドキャリアとして文部科学省で働いている例もあります。どの職業を選ぶにしても、どの切り口で教育に関わりたいかということが大事になってきます。

◎職業による影響の大きさ

就職する前は、文部科学省は、日本の教育に与える影響の「広さ」は広いけれど、それぞれの子どもたちへの影響の「深さ」は限られている、と考えていました。一方で、先生であれば、普段対応するのは目の前の子どもたちだけですが、その子どもたちに影響を与える深さは非常に大きい、と考えていました。

しかし、文部科学省に入省後に感じたのは、確かに文部科学省の一職員が一人ひとりの子どもに与える影響の深さは限られていますが、職員一人ひとりの働き方によっては、文部科学省全体として、日本の子どもたちや先生方の状況をよりよくすることができるということです。同様に、教員であっても、目の前の子どもたちだけに影響を及ぼすのではなくて、教員同士で想いをつなぎ、メソッドを共有し、うねりをひろげていくことで、より広く、その影響が広がることもあると思います。広さ、深さといった考え方は意味がなく、むしろ、縁の下の力持ち的な役割を持つ行政の立場と、現場の教員の力がうまくシナジーを生むことができれば、日本の教育全体に広く・深く、よい影響は広がっていくと思います。

3 中村さんの経歴・仕事選びについて

◎大学入学まで

子どもの時は、おとなしく恥ずかしがり屋で、運動もできない不器用でした。それが自信のなさにつながっていたと思います。一方で、非常に単純ですが(笑)、小学校の時に入った塾で一生懸命勉強した結果、成績が上がったことで、何事もがんばったら上手くいくんだ、という自信につながりました。

中学からは中高一貫の進学校に入りましたが、中だるみしてしまったうえに、生来の自信のなさがもたげてきたことで、明るい中高時代ではありませんでした。ただ、明確なきっかけはないのですが、高校生になってから、「自分はこのままではいけない」と思いたち、深く考えずに東大を目指すことになりました。その結果、当然のように浪人してしまったのですが、一年の浪人生活の末なんとか東大に入学しました。

◎大学入学後

大学では、このイベントの主催者である教育系NPO・ROJEに所属しました。教育のシンポジウムの運営に関わる中で、周りのメンバーと議論をし、協働し、イベントを作り上げる、そしてその成果が出ていくなかで、自分がちょっぴり頑張ったことを周りが気づいてくれる、そしてお互い励ましあい感謝しあう、そんなプロジェクトメイキングの経験を通して、自分で考えて行動して、周りの人々と議論をしながら何かを作り上げること、そしてそれを通じて成長していく喜びを感じました。こうしたことを含めて、自分の人生の様々な経験を通して、「人が育つことや自信を育むということはどのようなプロセスを経て起こるのだろう」と考え続けたことが、教育に強い関心を持つに至った自分の背景でした。

◎仕事選びについて

さて、前置きが長くなりましたが、そのようなバックグラウンドの自分にとって、職業選択の軸は何だったかというと、まずは「やりがい」です。長い年月その職場で働いていく以上は、楽しいこともあれば大変なこともあるので、そのなかで頑張るには、自分の好きな分野の方がよいと考えていました。そのため、「教育」に関連した職業を選びたいと考えました。また、大学時代の自分の経験を踏まえて、成長するということの喜びを感じられる職場か、社会貢献を大事に仕事ができるかということも軸の一つでした。

一方で、現実的な問題として、その仕事や職場が自分に向いているかどうかという点も大事にしていました。興味のある職場であっても、自分に合わない職場であったら頑張れる度合いも変わってきます。これらの軸を持って就職活動をする中で、民間企業も含めて様々な職場の話を聞いて、自分の軸にもっとも合っていると感じたのが文部科学省でした。

4 文部科学省について

◎『文部科学省=教育』は間違い?

『文部科学省』と聞くと、『教育の役所』というイメージが強いと思います。ただ、文部科学省は教育だけを取り扱っている省庁ではありません。文部科学省には大きな「局」が9つありますが、教育を扱っているのはその中で3つのみです。特に、幼稚園から高等学校までの初等中等教育を主に扱っているのはそのうちの1つの局です。

文部科学省ホームページより抜粋

◎『文部科学省職員=官僚』は間違い?

また、必ずしも『文部科学省の職員になる=官僚になる』というわけではありません。例えば、私の勤めている課は50名規模ですが、いわゆる『官僚』と呼ばれる総合職の職員は現在8名です。一般職の職員は、私の課は比較的少なく、1名です。一番多い職員は、元々大学から研修生として文部科学省に出向して、そのまま転籍した職員で、その他にも、現在教育委員会や大学から出向している方々、非常勤職員の方々もいます。それぞれが専門性を生かして活躍しています。このように、文部科学省は必ずしも総合職の職員だけで構成されているというわけではありませんし、総合職の職員のみで政策を動かしているわけではありません。

よく学生から聞かれる質問として、「学習指導要領はどのように改訂されるのか」というものがありますが、役人が思い付きで教育の在り方を書くわけではありません。その中心となって動いているのは教科調査官という方々です。教科調査官は、各教科に合わせて数十名が在籍していますが、教員としての現場経験が長く、各都道府県から文部科学省に移ってきていただいたという方がほとんどです。

このように、文部科学省には現場の経験を積んだ方が多く在籍しているのが実情です。また、他省庁からの出向してきた職員もいますし、中途採用の方もいます。女性比率も全省庁の中では比較的高く、出身大学に関しても国立大学出身者の比率は他の省庁と比べると低いです。ご参考までに、国だけではなく、地方の教育委員会事務局も、おおむね半数は行政職の職員ですが、もう半数は現場教員出身の指導主事が担っているというケースが多いです。

◎文部科学省の仕事

文部科学省の仕事は多岐にわたります。一番イメージしやすいのは法令・制度を作ることでしょう。ただ、行政の手段とは、法令や制度を作ることだけではなくて、例えば予算を確保して現場の取組を後押ししたり、ガイドラインを作成して民間企業に取組をお願いしたり、事例集を共有したり、広報したりすることも行政ツールの一つです。

省庁の仕事の特徴としてカウンターパート(関係者)が多いことが挙げられます。特に文部科学省は教育を担う役所ということもあり、政策の当事者が多く、学校に関わる様々な団体から現場の観点からのご意見をいただくだけではなく、与党や野党からも政治的観点から様々なご意見をいただきます。このほかにも都道府県関係者や、専門家、民間の関係者などの多様な関係者がいる中で、誰もが100%納得できる政策はほとんどありません。その中でどうやってできるだけ多くの人に納得してもらえるような政策を作り上げるのかという点が難しいです。

◎文部科学省に入って感じたやりがい

仕事を選んだときの軸に照らしてみると、文部科学省に入って感じたやりがいとしては、自分が興味を持っていた教育というテーマについて、自分なりに考えて、周りの人と議論して、それを形にすることができる環境が挙げられます。成長という点では、大きな組織で、様々な関係者と政策を作っていく中での学び、多様なフィールドで仕事をして専門分野のことを学べることなどが挙げられます。また、学生時代に教育について考えていたことが、より広い視野で、現実を見ながら考えることが出来るのはいい点だと思います。また、理不尽なことがあっても、腐らずに熱意と理性をもって真摯に仕事に向き合っている先輩たちに出会うことができたのは何よりの喜びです。

◎仕事の負の側面

1つ目に、ハードワークであることは間違いありません。確かに雇用は安定しているかもしれませんが、国会期間中は実際の残業時間が100時間を超えるような月もあり、私を含め多くの職員が、家事や趣味などとの両立に苦心しているのが現実だと思います。この点は、現在進められている働き方改革に大いに期待しています。

2つ目に、泥臭さのある職業だと感じます。デスク上で頭を使う仕事だと思われがちですが、国会議員の先生から至急説明に来てほしいとお願いされて、文字通り走って向かうようなこともあります。また、例えば緊急で全国調査をする場合、外部に依頼するにも時間がかかるため、自分でExcelの調査票を作り、全国にアンケートを送付し、集計するといった作業をすることもあります。

このように、文部科学省で働くためには多角的な力が求められるため、文部科学省に入省することを検討している方は、学生時代に多様な経験をして、様々な人と交流することが大切だと思います。どんな経験であっても無駄になることはないと思います。また、文部科学省以外の仕事についても知っておいてもらいたいと思います。そうすることで、「なぜ文部科学省に入りたいのか」ということが自分の中で明確になると思います。

5 就職活動をしている方にむけて

私が就活をしている時に、「『はたらく』とは『はた』を『らく』にすることだ」という言葉を聞いたことがあります。働くという言葉の本当の語源ではないようですが、私はよい言葉だと思っています。『はたらく』ということは、自分が生きていくため、楽しむため、成長するためでもある一方、周りのための営みでもあります。周りというのは家族のため、あるいは地域のため、日本のため、世界のためかもしれません。自分のために『はたらく』のと同時に、他人のためにも『はたらく』ことが、仕事の面白さだと思います。皆さんにとってそんな素敵な仕事が見つかることを願っています。

6 プロフィール

◎中村義勝さん

東京大学教育学部卒業後、2011年に文部科学省に入省。全国学力学習状況調査、高校無償化、芸術文化政策、科学技術政策について担当。現在は高等教育局の大学振興課にて、大学制度や入試関連の業務に従事している。(2020年6月現在)

7 編集後記

「教育に携わる仕事をしたい」という「何をしたいか」だけではなく、自分が「どうなりたいか」ということを、様々な経験をする中で磨いていくことが大切だと感じた。
(文責:EDUPEDIA編集部 安藝航)

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