<大学入試を議論する>大学入試において共通テストは必要か否か

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目次

1 はじめに

本記事は、教育をめぐる様々なテーマについて問いを設定し、EDUPEDIA編集委員が議論した内容をお届けする【Discussion of Student】の第1弾です。今回のテーマは「大学入学共通テスト」です。

第1回の大学入学共通テストは今年度(2020年度)の1月に予定通り実施されますが、英語民間試験や記述式導入の是非など、まだ制度設計上の議論は決着を見ていません。そこで、そもそも大学受験生が共通して受けるテストはどのようなテストが望ましいのか、具体的に議論を行っていきます。是非、それぞれの論点についてどう思うか考えながら読み進めてみてください。

2 取り扱う論点

2つの論点を今回は扱いました。1つ目の論点での議論が本記事でご紹介いたします。2つ目の論点での議論はこちらの記事に掲載されています。 1つ目の論点は、「大学入試において共通テストは必要か否か」、2つ目の論点は「共通テスト(大学をまたがって行われるテスト)において記述式問題は必要か否か」と設定しました。

本記事の論点「大学入試において共通テストは必要か否か」においては、共通テストが必要だと思う場合は、それは誰を対象としたどのような内容のテストが良いのか、逆に必要だと思わない場合はその理由と、共通テストが果たしている機能の代替方法を提示する、という形式で行いました。

3 前提資料

今回は、編集部内で議論する前に、共通テストについて議論する上で必要となる前提知識について、企画者が簡単に情報をまとめて提示する形を取りました。ここではその簡単な内容を紹介します。具体的な資料はこちらからご覧ください。

議論の前提資料.pdf

各国の共通テストとの比較

共通テストは日英米仏独の5カ国でいずれも存在していますが、その位置付けは異なっています。中等教育機関の修了試験として機能する独仏と、大学での学習の前提となる能力を問う英米という大まかな見立てからすると、日本の制度は中間的な立ち位置になっています。

共通一次試験とセンター試験と大学入学共通テストの比較

前回のセンター試験の導入の際は、苛烈な受験競争、大学の序列化という制度的な課題の解決が目指された形でしたが、今回の大学入学共通テストの導入では制度的な課題の解決を目指すものというより、高大接続改革の理念の実現のために行われたと言えるでしょう[1]。また、共通テストも同じ役割を果たしてきたわけではなく、受験者層の裾野が広がり、多様な利用のされ方をされるようになってきています。

[*1] この点については、教育再生実行会議の第4次提言「高等学校教育と大学教育との接続・大学入学者選抜の在り方について」でその性質が確認できます。

高大接続の日本的性質

90年代以降、大学の数も増え大学の進学率が上昇する中で、大学入試での競争は局所的になり、大学入試が持つ高校生を学習に駆り立てる効果も限定的になっています。また、各大学の個別試験において問われる科目が縮小される傾向がある中で、学力保障においてセンター試験の役割は高まってきています[2]。

[*2] 参考資料:荒井克弘. (2011). 高大接続の日本的構造. 高等教育研究, 14, 7-21.

4 議論内容

話題①:そもそも共通テストは必要なのか

必要
大学の学習に必要な基礎的な力を測る上で有効。良質な問題を様々な大学を受ける受験生に適用できる点で効率的。
必要ではない
高校の学習範囲を問うのであれば、高卒認定のような資格試験で代替するのがよい。高校卒業レベルに必要な学力を定めて、それを卒業資格にするのがよい。

効率性の点から、高校と大学との間に共通で学力を問う制度が必要という点は編集委員の意見が一致しました。その役割を共通テストが果たすべきという意見が大半ではあったものの、高卒認定のような資格試験でも代替できる、という主張もありました。認定試験は高校での学習の習熟を問う共通テストと役割として同じではないかという指摘があり、話題②につながっていきました。

話題②:共通テストはどのような位置付けがよいのか

大学での専門に近い・関係ある内容を問う
大学での勉強に直接繋がらないような内容まで問うものは、大学入学のための試験として不適切。大学の学習にスムーズに入るためには、大学入試も専門に近い内容の方がよい。専門に関連の浅い苦手分野のある学生が、専門を学ぶ機会を奪われるのはよくないのでは。
高校での学習内容の習熟を問う
大学での学びの前提となる力は大学によって異なるはずで、それは二次試験で各大学がそれぞれのやり方で問うのがよい。多くの受験生が受ける共通テストでは、基礎的な内容として高校の学習内容の中から出題していくのがよい。

高校までの積み上げ型の学習と、大学からの学問的な学習では性質が違うため、非常に難しい話題でしたが、結果としては、高校での学習内容の習熟を問う派が多数派でした。その主な理由としては、大学での学習を進めるためには高校の基礎的な内容理解が必要、というものでしたが、実際に行われている試験内容と大学での学習の結びつきは弱いという意見もありました。大学専門に近い内容を問うとしたら、論述式や選択科目の多さといった、運営コストが大きい制度を構想する必要もあることには注意が必要でしょう。選択科目に関する話から、話題③につながっていきました。

話題③:共通テストはどのような出題範囲にするのがよいのか

必要になる科目を増やす形で、共通テストの科目を画一化するべき
共通テストにおいて1~2科目のみの利用など多様な利用の形が広がったため、全体的な学力が落ちてしまっている。高校までの学習を習熟した上での進学が望ましく、そのためには今よりも受験に必要な科目を増やして画一性を増すべき。
今のまま、多様な形で利用できる方がよい
様々な大学が共通テストを利用している以上、科目の利用方法を画一化するのは難しい。それぞれの大学に任せず良質な問題を共通して提供できているので、問題ない。

この話題では、基本的に今のままの多様な形を続けた方がいい、という意見が多数派でした。運営の肥大化、複雑化に対する対策については深く議論するに至りませんでしたが、科目を増やして画一化すると受験生に敬遠されて利用できる大学が限られ、逆に大学の個別試験の運営負担が大きくなってしまう可能性もあります。運営側の負担、受験生側の準備の負担、それぞれの選択肢で期待できる効果を比較しながら、漸次的な制度改善を試みる必要があるでしょう。

話題④:共通テストはAO入試や公募推薦の人も利用する試験にする必要があるか

必要
AO入試や公募推薦でも基礎的な学力は大切で、それを測る試験は必要。結局は、一般入試で入った人と同じ内容を学ぶことになる。受験形式が多様化しすぎた結果、学力の低下につながっているのでは。
不必要
共通テストが本当に基礎的なものにはなっていない。大学次第で求める人材も能力も大きく異なり、それぞれの大学の教育に即した人材を取るためにAOや公募推薦があるのではないか。そういう人が共通テストを受ける必要はない。

両者とも、大学で学ぶ基盤となる共通の学力保障が必要という点は一致していました。ただ、その役割を共通テストが担えるという前提だと必要派になり、担えないという前提だと不必要派になる、という構図でした。現状では学力保障において大学入試の役割が大きいこともあり、必要派の方が議論の中では優勢でしたが、多様な人を包摂するようになった大学にあって共通テストは大学での基盤の学力保証の役割を担えるのか、という不必要派の指摘も重要であると言えるでしょう。

話題⑤:地域による格差の克服の手段として私立大学の共通テスト利用入試は必要か

必要
全国どこからでも受験できる入試は私立大学の共通テスト利用入試のみ。受験料や受験日程の観点からも、地元での一回の受験で複数の大学に出願できることのメリットは地方の学生にとっては大きい。進学における地域格差の克服において一定の役割を果たしているのでは。
不必要
私立大学は経営主体であり、どのような形で学生を取ろうと基本的に自由ではないか。地域間格差の克服のために共通テストに「参加させる」のはよくない。共通テスト利用もあくまで学生確保のための一手段として位置付けた方がよい。地域間格差への配慮は国公立大学にとっては重要だが、同じレベルの配慮を私立大学に求める必要はない。

この話題は、私立大学の割合が多い日本ならではのポイントであり、あまり共通テスト関連で議論されないものであったので本記事でも取り上げました。多様化した受験形式の影響もあり、学生あたりの併願数が多く一学生あたりの受験料も高額になるなかで、共通テストを利用した入試は有効という指摘は鋭いと言えるでしょう。不必要派の指摘も大学運営の自律性という面で重要ですが、どちらにせよ共通テスト利用入試が私立大学にとって地方の学生を引きつける有効的な手段になっている可能性はあります。

5 おわりに

ここまで、編集部内の議論をご紹介してきましたが、いかがでしたか。大学入試において共通テストは必要と思われましたか。どのような試験制度が適切だと思われたでしょうか。共通テストという制度一つをとっても、様々な話題、論点が複雑に絡み合っているのを感じていただけたかと思います。これからも共通テストに関わる議論はしばらく続くと思われますが、共通テストをより多様な視点から明確に捉えることに本記事が貢献できれば幸いです。

(編集・文責:EDUPEDIA編集部 新井理志)

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