「のぞみ」から「かがやき」へ ー研究開発学校の授業とこれからー

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目次

1 はじめに

この記事では、平成30年12月2日に行われた広島大学附属三原幼稚園・小学校・中学校の幼少中一貫教育研究会で行われた理科の授業と講演会について紹介します。広島大学附属三原幼稚園・小学校・中学校は、文部科学省研究開発学校指定校にもなっており、高度に競争的でグローバル化された多様性社会に適応するために求められる、3つの次元(横断的な知識、レジリエンス、躍動する感性)の基礎となる資質・能力を育成する幼少中一貫教育カリキュラムの研究開発を行なっています。今回の研究会では、午前に全科目の公開授業を行い、午後からは「これからの研究開発学校とカリキュラム開発ー『のぞみ』と『かがやき』の開発をもとにー」をテーマとした天笠茂先生の講演会と協議会が行われました。

2 理科研究構想(第21回幼少中一貫教育研究会冊子)より

理科の目指す子どもの姿

自然の事物・現象の中に問題を見出し、理科の見方・考え方を働かせながら、仲間とともに粘り強く問題解決に挑戦し続ける子どもの姿です。

3つの次元と理科の関係

横断的な知識→課題や仮説を設定する力

課題や仮説を設定するには、知識が必要不可欠です。知識は課題や仮説を設定するための源であり、課題を解決するための手段でもあります。また、科学的な視点で自然現象をとらえることも課題や仮説を設定するために必要な見方・考え方です。

レジリエンス→協調性、粘り強さ

問題解決には観察、実験を実行することが必要です。理科の授業で行われる観察、実験はグループ活動であり、目的を共有し、役割分担や意見交流等の他者との関わりを持ちながら、課題の探求を行い、この活動を通して協調性を高められます。また、課題の探求は何度も繰り返し行われ、探求の過程そのものを振り返ることで、良かった点や問題点、改善策を見出し学びに必要な粘り強さを身につけていくと考えられます。

躍動する感性→問題発見力

躍動する感性とは自然事象に主体的に関わり、その中から多様な情報を取り出し、既有の知識と科学的な視点で解釈して、それを認知することです。認知した内容のうち、疑問は解決する方向性や手立てが明確になっていないため、科学的な視点を用いて疑問を解決する方向性や手立てについて考えることで、問題としてして見出すことになります。問題を見出す力とは自然事象に対する疑問を観察・実験によって解決できる問いとして表現できる力です。

3 理科の公開授業(風呂和志先生)の流れ

今回は、「大地の成り立ちと変化」の単元の授業を見させていただきました。 今回の授業で行うことは、「『水の働き』・『火山活動』・『地震による土地の変化』の3つの視点で情報を読み取り、表に整理させ、検討と修正を行う」です。小学校で学んだ大地を変化させる3つの働きである、水の働き、火山の働き、地震の働きのあとを観察資料から見つけだし、採取した試料と露頭の観察結果を整理することを通して、それらの中から問題を見出し、さらにこれから自分個人で明らかにしたいことを設定します。準備物は、採取した試料、ルーペ、付箋紙、顕微鏡、ワークシート、露頭の写真です。

導入

前回の授業の復習

前回の授業の野外活動で観察したことを、前回使用したワークシートを用いて復習していました。ここでは、Googleマップなどを用いてどこで調査したかなどを生徒に、しっかりと思い出させていました。

展開

グループワーク

4人1組の班で、前回の授業で得た試料を双眼立体顕微鏡とルーペを用いて、観察していました。配られたワークシートに観察したことを記録して、グループの中で話し合っていました。生徒は、観察試料から観察できる、粒の大きさや形状、色などに言及して、意見を交換しあっていました。

発表

それぞれの班に発表する箇所を分担して、準備のできた班から黒板に書いていきます。そして、すべての班が書き終わったら、班の発表者に発表させていました。発表では、水の働きがある中にも、キラキラした粒も含まれていることから火山の働きが混ざっているのではないか、また海岸段丘はもともと海の底にあったものであり、水の働きだけで土地が盛り上がったりするのかという疑問を他の班に質問する生徒もいました。

まとめ

今回の授業をどう生かすか

今回の授業で学んだことで、何を明らかにできるようになったのかを考えさせていました。生徒からは、「水の働き、火山の働き、地震の働きのうちどの働きで、地形ができたのかがわかる、過去に何があったのかわかる」、という意見が出ていました。

学習課題の設定

他の班の発表を聞き、今回の授業でわかったことを踏まえた上で、ワークシートに、疑問がでたり、わからなかったりしたことや明らかにしたいことなどを書きます。その後、自分だけの新しい学習課題の設定をします。

ペアトーク

新たな学習課題を設定したら、ペアトークをして学習課題の共有を行います。ペアトークにより、他の生徒の考え方に触れることで、新たな発見や個人のより良い理解につながっていました。協議会では、ペアトークではなく班で学習課題の共有をおこなった後、数人の生徒に発表させる予定であったと聞きましたが、ペアで話すことにより、学習課題の設定理由などの話ができて、より濃密な話し合いができていたと評価することができ、結果的に良かったとの意見がありました。

4 講演会:これからの研究開発学校とカリキュラム開発ー『のぞみ』と『かがやき』の開発をもとにー(天笠 茂先生)

研究開発学校について

日本においては、学習指導要領を基準として教育課程を編成するということが公教育の制度です。しかし、研究開発学校では、文部科学大臣の認可がおりているため、それを踏まえなくてもいいのです。研究開発校において学習指導要領にない取り組みをしようとする時には、審査を必要とし、そこで認められるとたらその取り組みを行うことができるのです。例えば、今回新たに決まった学習指導要領の内容では、小学校5、6年生から英語科の教科が始まるわけですが、もし小学1年生から英語科の教科を入れたい場合には審査が必要になり、認められる必要があります。実際に、今1年生から英語科の授業を行なっている学校は増えています。研究開発学校では教育課程全体のあり方を検討するという取り組みが行われています。

広島大学附属三原幼稚園・小学校・中学校の取り組み

基礎的・汎用的能力の探求

これから生きていく子ども達に、将来的な見据え方をした時に、どういう力を育てていくかということが求められます。基礎的・汎用的能力の探求とは、このような探求のことです。一般化して言うならば、どういう子どもを育てたいのか、子ども達のどんな力を育てたいのか、それを明確にすることの追求です。

「のぞみ」

特別活動、総合的な学習の時間、道徳を合わせた10時間をひとかたまりとして、それを「のぞみ」と命名して、その「のぞみ」のあり方を探求、検討し、それを授業におろして展開していくという取り組みをしています。国語、算数といった教科指導のかたまりと、特別活動、総合的な学習、道徳のかたまりの2つの領域で教育課程を構成しているのは、実は日本の教育の大きな特徴であり、世界的にも注目していい教育課程構成であります。広島大学附属三原幼稚園・小学校・中学校では、「かがやき」という両者を関連づけるようなものを突き詰めようという取り組みがなされています。「のぞみ」から「かがやき」へ、というのが広島大学附属三原幼稚園・小学校・中学校の研究開発です。

幼少中の連携

幼少中の期間あるいは、少なくとも小中の9年間での子どもの成長を視野におさめながら子どもを育てていくような環境を作りが必要ではないかと考えられています。

研究開発のポイント

教育課程の体験

研究開発の担当を引き受けるということは、特定の過程を越えて教育課程全体を取り組んでいくということが1つのポイントとなってきます。

研究開発の手法

研究開発の手法とは、授業を通してその教育課程を開発するということです。学校が校内研究で授業を研究するという進め方と、研究会などで研究するということは基本的には同じです。研究開発学校の場合は各教科の授業を積み上げていきながら教授観点として成功させていくのか、どういうふうにつなげていくのか、という悩みが生じてきます。つまり教科間の関係をどうするのか、あるいは教育課程全体で見ていった時にどうするのかということです。実はそこは研究開発学校の教育課程を取り上げていく時の大きなポイントとなってきます。

他の研究開発校の研究

研究の世界では、先行研究の研究が必要不可欠です。先行研究があった上で、これからの研究があるのです。他の研究開発校をベースとして、取り組みを行うことが必要であり、どの学校もある段階までは同じ道を辿るのだというようなスタンスでいるべきであります。これは、研究開発校のみならず、現場研究の問題の1つでもあります。

システム開発

どういうカリキュラムができたとか、こういうシステムを通過してこんなことができたということを合わせて共有できると、システムの開発になってくるのです。

保護者の方や地域の方との連携

研究開発学校などの難しい世界になるため、子どもを預けている保護者の方の立場からすると何が起こっているのかわからないということもあるので、おりおり保護者の方と話を共有するということが大切です。保護者の方の理解があって、保護者の方や地域の方との関係づくりに力を注ぎ、地域との総力をかけた関わりの中で、研究開発の発展がなされるわけです。

5 プロフィール

風呂 和志  広島大学附属三原幼稚園・小学校・中学校 理科教諭・主幹

天笠 茂 千葉大学教育学部 特任教授 (2019年6月時点のものです)

6 編集後記

研究開発学校の授業に参加して、個人によるこれからの課題設定など新たな取り組みにたくさん驚かされました。講演会では、研究開発学校がこれからどうしていけばいいのか深くまで知ることができて、とても良いお話を聞けました。研究開発学校がこれからも栄えていくといいなと思います。
 (編集・文責:EDUPEDIA編集部 坪田)

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