佐藤亮子氏講演録 〜笑顔で楽しい子育て〜 【関西教育フォーラム2018】

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目次

1 はじめに

この記事は、2018年11月25日に開催された関西教育フォーラム2018「学校×塾×家庭で対話する"その子らしさ"を引き出す新時代の教育」の登壇者である佐藤亮子氏の講演録です。佐藤氏は、長男・次男・三男・長女が全員東京大学理科三類に合格していることから、その子育て法が注目を浴びています。
 佐藤氏には、子育てをするときに大切にしていたことについて、具体例を踏まえてお話していただきました。

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2 基調講演

子育ての目標は「自立」ではなく、「自活」

私は家庭でどんな子育てをしたかを説明したいと思います。

長男が生まれた頃はゆとり教育の真っ最中で、この子はこれからどんな学校・世界で生きていくのだろう、と思いました。そこで、子どもが「自活」できるようになることを目標に子育てをしようと考えました。

子育ての目標は、一般的には「自立」と言われます。「自立」というと、1~3歳児の時期にはおむつを早く卒業させることを考え、小学校では自分で靴下を履くことや自分で宿題をすることを促そうとします。しかし、これらはいずれ誰でもできるようになることばかりです。そんなことに躍起になるのって馬鹿馬鹿しいじゃないですか。

そのため、私は子育ての目標を自「立」ではなく自「活」と言っているのです。「自活」というのは、子どもが自分で稼いで食べられることだと思います。

今の日本の学校制度では、子どもは18歳で高校を卒業します。18歳を過ぎると、たとえ自宅から近所の大学に通ったとしても、子どもの心は親から離れていきます。
 したがって私は18年間で子育てをやめることにしました。子どもが大学に入学したら子育てを終わりにするということです。ですからその18年間は真剣に子育てをしました。

徹底すること

生まれたての子どもは本当に小さくて、私は命を預かる責任感を感じました。

新聞には、パーカーの紐が滑り台に引っかかって子どもが亡くなってしまっただとか、ピーナッツが気管に入って子どもが亡くなってしまった、といったニュースが載っていました。子どもはちょっとしたことで命を落としてしまうのです。
 そこで私は、まず子どもの命を守ることに決めました。さっそく家中のパジャマの紐を抜き、家から紐をなくしました。主人に柿ピーは死ぬまで食べるなと言ったりもしました(笑)。とにかくすべて徹底したのです。

職業選択肢を広げるための基礎学力

そうして徹底しているうちに、勉強も徹底しなければ身につかないことに気づきました。

18歳から子どもが自活できるようにすることを考えると、小学校で習う漢字や計算ができなければ会社に雇ってもらえず社会で役に立てないので、そこはきちんとやらせるようにしました。また、将来の仕事につながる大学や学部を選ぶときに「ここに行きたいけど、行けない」という状況になってしまうと悲しいですよね。行きたい大学や学部を選べるようにするために、基礎学力をつけることが必須だと考えました。

小学1年生は1年たつと小学2年生になりますし、夏が来たら夏休みが来ます。18歳までの予定はすべて事前に分かっているのです。ですからモタモタしていてはいけません。基礎学力は積み重なっていくものなので、途中で抜けてしまっては先に進めないのです。

今の教育を知る

そのようなことから、これから先を生きていく子どもたちをどのように育てようかと考えました。

私が受けた教育が今の子どもたちに合っているかどうかは分かりません。私が受けた教育といえば20年も前のことなのですが、それががよっぽど悪いものでなければ、その教育は正しいと思ってしまいがちです。
 しかし、もっといい教育があるかもしれないと反省的に見なければ、子育ては進められません。そこで自分が受けた教育と今の教育との違いを具体的に調べることにしました。
 たとえば、長男が生まれる直前に当時の小学校1~6年の教科書を全部取り寄せました。ゆとり教育の時代だったのでペラペラだと感じたりしながら、最新の教科書で当時の教育の現実を知りました。

子育ては常に先を考えながら。出たとこ勝負の毎日では育たない

これから先18年間で何があるかは分かっているのですから、暗中模索の子育てではなく、親が一人ひとり違う子どもに合わせた教育をすべきだと思います。たとえば小1の時点で足し算が苦手だったら、その先で落ちこぼれてしまわないように、その場で徹底して潰しておかなければなりません。
 長男に初めて一桁の足し算を覚えさせたのは4歳の時でしたが、スラスラ解いているように見えて、8+7の問題で一瞬止まっていました。一瞬止まってもちゃんと解けるので見逃しやすいポイントなのですが、その先で問題が887+775という風に難易度が上がってくると手が止まってしまいますよね。だから苦手は小さいときから潰さなければならないのです。

そういうわけで、8+7=15と書いた紙を30枚用意して家中に貼りました。このときのコツは、まっすぐ貼るのではなく少しずらして貼ることです。そうすると違和感を感じるので目につきやすくなります。それから、意外なところに貼ることも、覚えやすくするコツです。子どもはよく冷蔵庫を開けるので、冷蔵庫を開けたら8+7=15が貼ってあるようにしました。他にも天井に貼って寝転んだ時に8+7=15が見つかるようにしたり、エアコンの吹き出し口に貼っておいてクーラーをつけると8+7=15がパタパタするようにしたりしました。「ママしつこいな~」と言われたりもしましたが、ここまで徹底すれば子どもも8+7=15を覚えます。

また、夏休みに自由研究や読書感想文があることもあらかじめ分かっているので、5月からいくつかテーマを考えておいて、夏休みに入ってすぐ、子どもにどれをやるか選ばせました。親が焦ってバタバタしていてはいけません。子どもはその間に大きくなってしまいます。出たとこ勝負の毎日では子どもは育ちません

「勉強しない」「〜できない」を叱らない

子どもが勉強しないのには理由があります。その時に「なんでできないの」と叱っても何も変わりません。重要なのは親のやり方を変えることです。
 たとえば、ゴロゴロ漫画を読んでいる子どもに対して「漢字テストはいつあるの? 範囲はどこなの? 漢字は大切なんだからちゃんとやらないとダメよ」と叱っても、子どもにとっては無意味です。親が漢字テストの日程も範囲も、子どもの苦手な漢字も把握していないのでは子どもはいい点数を取れないのです。勉強ができないことを子どもの能力のせいにしてはいけません

親は具体的なビジョンを持っているか

勉強しない子どもに対して、ただ叱るのではなく子どもに合わせて勉強の方法を考えます。

たとえば「水曜日にテストがあるよね。水曜日は今から5日あるね。範囲が10ページあって、一日2ページずつやったら終わるよね。あなたには30分くらいかかりそうな内容だから、お母さんがご飯を食べた後の19:30から20:00までやろうね」と具体的に言えば子どもは必ずやります。親が頭の中に、子どもに合わせた具体的なビジョンを持つのです。

「頑張りなさい」「ちゃんとやりなさい」というのはすべて精神的な問題です。「しっかりやりなさい」と言っただけではしっかりできません。できないから点数が悪いのです。それは親の責任です。子どもに合ったやり方は必ずあるので、子どもを観察することが大切です。

「笑顔」を大切に

子どもを育てる時には「笑顔」を意識していました。子どもが40歳になった時に、「今の自分の人生も楽しいけど、あの18年間も楽しかったな」と思い出してほしいと思うのです。

18年間を笑顔で楽しくするにはやはり学校の成績が大切です。
 たとえば遊園地に行けば楽しいですが、そのような刹那的な喜びだけでは18年間を笑顔にできませんよね。ちゃんと毎日の学校や塾が面白くあるためには基礎学力が必要なのです。

学校の先生方も、塾の先生方も子どもたちの笑顔を目標にして教育をしていると思います。私も同じで、決して大学を目標としていた訳ではなく、「親も子も笑顔で」ということを目標にして子育てをしてきました。実際に子どもたちは楽しかったと言っているし、私も楽しかったです。人生を巻き戻せるなら、長男が生まれる前からもう一度やりたいと思えるくらい、楽しい子育てでした。

3 プロフィール

4 関連記事

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【講演録】

【フォーラム後インタビュー】

また、この記事は関西教育フォーラム2018の連携企画となっております。以下の記事も併せてぜひご覧ください。

5 編集後記

佐藤氏のことを良く知る前は、スパルタ式で子どもを厳しく教育しているのではないかというイメージが強かったのですが、実際にお話を伺うと子どもの笑顔や楽しい子育てを大切にしておられる素敵なお母様だということが分かりました。

(文責:平原由羽)

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