人生100年時代の「学び・育てる」を考える~学校の先生と企業の人事に何ができるか~(先生の学校×One HR)

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2018年3月24日(土)、都内にて教育・育成の現場に携わる「学校の先生」と「企業の人事」双方の課題や知恵を持ち寄り、これから必要とされる「学び」と「育てる」を考えるワークショップが行われました。(主催:先生の学校One HR
 本記事は、当日の内容を編集したものです。

本記事の内容(敬称略)

1、「課題の共有ライトニングトーク」

「先生」から見た【教育】の課題ライトニングトーク(10分間)
スピーカー:二川佳祐(武蔵野市立第一小学校 教諭、DAncing Future Learner代表/Beyond Labo代表/朝志塾 代表)

「人事」から見た【教育】の課題ライトニングトーク(10分間)
スピーカー:西村英丈(One HR 共同代表)

2、「パネルディスカッション」
モデレータ:藤岡雅美(経済産業省

登壇者:道村弥生(株式会社ハグカム代表取締役)
     島村学(高校教諭、ここだけの保護者会 主催)
     遠藤忍((株) マクロミル人事・新卒採用担当/ NPO法人青春基地プロボノスタッフ

3、参加者ワークショップ「人生100年時代に、先生と人事は何ができるか?」

登壇者の詳細プロフィールはこちら(イベントページ)、所属は2018年3月24日時点のものです。

目次

1 「課題の共有ライトニングトーク」

ライトニングトーク1「先生」から見た【教育】の課題

スピーカー:二川佳祐(武蔵野市立第一小学校 教諭、DAncing Future Learner代表/Beyond Labo代表/朝志塾 代表)

「自律型人材」育成を妨げる4大疾病

普段は「ふたせん」と呼ばれています。今日は、次世代リーダー「自律型人材」を育てるために教育にできることと現場の課題についてお話します。

「自律型人材」育成のために必要なことは何か。私の答えはシンプルです。「先生が自律型人材であること」です。しかし、それを妨げる「教師の4大疾病」というものがあります。順にみていきましょう。

1、井の中の蛙病
 先生という仕事は、学校の中では子どもや保護者に慕われますが、社会全体の中でどれだけ市場価値を発揮できるか分かりません。 自分には自信がありません。残念ながら「先生は世間知らず」と言われることもあります。

2、子厳自甘症(こごんじかんしょう)
 これは私の造語ですが、字の通り「子どもに厳しくて、自分に甘い」先生のことを言います。例えば、子どもに宿題の提出期限にうるさいが、自分は課題を平気で遅れて提出する。子どもには半袖短パンで過ごさせて、自分はヒートテックを着ている、などです。このように、大人と子どもを分けることが問題だと思います。

3、ワクワク欠乏症
 先生を対象にした調査では、精神疾患による病気休職者は毎年5000人前後と言われています。勤務時間が12時間を越える人も多く、プライベートや学び直しの時間が取れないのが現状です。「何を取り入れ、何を捨てるのか」トレードオフの考え方を持つ必要があると思います。

(参考)平成28年度公立学校教職員の人事行政状況調査について:文部科学省

(「1週間当たりの学内総勤務時間数」 教員勤務実態調査(平成28年度)の集計(速報値)について(概要):文部科学省より)

4、ガラパゴス化症候群
 先ほどもありましたが、「学校は社会と隔離されている」と言われます。先生にも子どもにも使いやすい IT環境はまだ整っていない部分もありまし、先生のITリテラシーは極端に低いと言えます。
 また、 会議資料などの「紙文化」や体育の「前に倣え」など、これからの社会をつくる子どもたちの教育に本当に必要なのでしょうか。

処方箋

4つの疾病を伝えましたが、それらに対する私なりの処方箋をご紹介します。

井の中の蛙にならないためには、職場と家庭の他に学びのサードプレイスをつくっています。私は様々な分野で一線を越えている人と対話で学び、地域と繋がる「Beyond Labo(ビヨンドラボ)」という勉強会を開催しています。学校の外を知ることで、自分が社会でどれだけ通用するのかを試しているという部分もあります。

ワクワク欠乏やガラパゴス化に関しては、自分を社会に開くことが大切だと思います。そのためSNSやブログでの発信を続けています。
(参考)ふたせん先生のブログ『小学校教師ふたせんの朝3時からの共育現場〜育つ育てる育てられる〜』

子厳自甘症に関しては、私は吉田松陰の「共に学びましょう」という言葉を大切にしています。先生と子どもを分けるのではなく、子どもと共に学ぶ姿勢を持ち続けたいと思います。一番は先達に学ぶために「本を読む」ことが大事だと思っています。

まとめ

  1. 学校以外の拠り所
  2. 社会に開くSNS
  3. 先達に学ぶ

この3つを実践していくことで、先生が輝き、学びを楽しめると思います。そして、その姿が子どもに伝播し、次世代自律型リーダーが育っていくと考えています。

ライトニングトーク2「人事」から見た【教育】の課題

スピーカー:西村英丈(One HR 共同代表)

「主体性」育成のために

新しく入社する若者と関わっていて、主体性を持っている人が少ないように感じます。大学生を対象にした調査では、就職したい企業選びの基準として「福利厚生」といったサービス面の優先度が高くなっているようです。
 かつては「自分が成長できる・海外で働ける」といったチャレンジ精神が多かったように思いますが、若者の意識が変わってきています。

主体性は「親や先生、周りが」といった客体性からではなく、「自分はこれがしたい」という意志を持つことで生まれます。 人材育成には「やる気・能力・環境」の三側面があると言われていますが、企業を通じて個人が何をしたいのか、その人自身がやりたいことを見付け出せるようなサポートをしていきたいです。

2 パネルディスカッション

モデレータ:藤岡雅美(経済産業省

登壇者:道村弥生(株式会社ハグカム代表取締役)
     島村学(高校教諭、ここだけの保護者会 主催)
     遠藤忍((株) マクロミル人事・新卒採用担当/ NPO法人青春基地プロボノスタッフ

テーマ1 いま、必要な学びとは?

道村
 私は、両親・祖父母が教員の教育一家で育ったのですが、大学卒業後、自分は先生にならず、企業で新規事業開発や人事担当で新卒採用をしていました。採用面接で多くの学生と話す中で、学生は「自分で決めた目標を持ってない」「優秀なのにチャレンジしていない」と感じることが多かったです。
 これには、自分が本当にやりたいことを見つけるための原体験の有無が関係していると思います。

遠藤
 新卒採用でよく言われる言葉に「地頭力」がありますが、「具体的に何?」と思います。他方、現場からはよく、体力とストレスコントロール力が必要だと聞きます。
 私が思うに、仕事で最も重要なのは、自分は相手にどんな価値を与えられるのか、という視点です。新卒の方は、仕事のベクトルが自分に向いていることが多いので、相手意識も持ってほしいと思います。

テーマ2 いま、育てる立場に求められることは?

島村
 私は高校で数学教員をしていますが、学校現場にいて世の中と離れるのが怖いです。そのため、SNS活用や「ここだけの保護者会」を主催しています。しかし、現場の中には、SNSが怖いと言う先生もいます。Twitterは生徒も利用しているので、生徒の見たくない部分を見てしまうのが嫌でやらないという理由です。
 インターネットで世界中の情報が得られるようになり、ジャンルによって子どもの方がよく知っていることもたくさんあります。流行を知らないと、「先生それ知らないの?」と言って離れていく生徒もいるので、できるだけ世の中の動きに敏感でいたいと思っています。

「ここだけの保護者会」開催レポート:教育の話というより、人間の話だった。 /green drinks Hibarigaoka vol11

道村
 子どもには、「学びの先に何があるのか」を示すようにしています。そのためハグカムの英会話では、なるべくバイリンガルの先生に活躍してもらっています。
 なぜなら、バイリンガルの先生は、自分も言語習得の努力をされて、英語を身に付けたことで自分の世界がどう広がったのかを、自分の言葉で子どもに伝えることができるからです。その話を聞いた子どもたちは、「なぜ学んでいるのか」について、自分なりの答えを見つけられるようになります。

遠藤
 社会人に必要な力は「自己開示」だと思います。新入社員が自分の思いや困っていることなどを周りに伝え、お互いを知ることで周りもサポートしやすくなります。
 かつては厳しく指摘する育て方が主流でしたが、今は承認や期待を伝えることが大切になっていますし、本人が自分で目標設定できるよう、自己開示による相互理解が大切だと思います。

テーマ3 学校の先生×企業人事の可能性

島村
 自己開示という点で、クラスの生徒はみんながいる前では話しませんが、個別面談だと話が止まらなくなります。年度末のクラスアンケートでも「先生ともっと話したかった」という声が多いです。
 というのも、私は数学の教員なので、関わる生徒も理系に偏るのです。これからは、もっと一人一人と話す時間を大事にしたいです。今日は企業の方も同じように悩んでいると分かって勇気が出ました。

道村
 子どもが自己開示をした後に、決断を子ども自身にさせたいと考えています。社会人になって主体性や行動力を発揮するために必要なのは、今までどれだけ自分で決断して動いてきたのかを示す「決断経験値」です。
 学校は人を育てる場です。学校の学びは社会でどう生きるのかをどんどん伝えてほしいですし、 企業もどんな人材がほしいのか明示することで、学生は社会に出るまでの時間を有意義に過ごせるのではないでしょうか。

藤岡
 第四次産業革命や超少子高齢化などを背景に産業構造が大きく変化する中、学ぶことと働くことがグラデーションのように繋がっていく社会になりつつあります。生涯学び続ける社会において、一層、教育界と産業界の連携が求められる社会になります。もちろん、文部科学省と経済産業省の連携も今まで以上に重要ですが、現場レベルでどのように繋がっていくかが肝心です。
 また、学校は人や物が集まる地域の拠点として、大きな可能性を秘めています。学校教育だけでなく、地域社会全体の中での役割なども見直しながら、うまく活用していくことで、使えるリソースも増えていくのだと思います。

(参考 当日配布資料)


(写真は、「人生100年時代の社会人基礎力について」平成30年2月、経済産業省 産業人材政策室より)

*上の資料は、必要な人材像とキャリア構築支援に向けた検討ワーキング・グループ(人材像ワーキング・グループ)(第7回)‐配布資料6です。

3 ワークショップ

最後に「人生100年時代に、先生と人事は何ができるか?」をテーマに、参加者同士の対話の時間がありました。学校の先生や企業の人事担当者を初め、多様な教育関係者から様々な意見が出ましたので、一部をご紹介します。かっこ内は発言者の所属です。

(経営コンサルタント)

キャリアとは成長を重ねることで、人は経験から成長する。その経験をどうつくるか。

原体験してない人はいないので、その価値に気付けるよう、どうリフレクションやサポートをしていくかがポイント。

(学校へ研修提供)

人生のスパンは人それぞれなので、「人生100年」という言葉は好きではないが、先生や人事といった枠を外して、お互いに同じ方向を向いていることが大切。

子どもたちが、自分が誰と関わって、何をしていきたいのかを考える時間がもっと必要なのではないか。異質なものに興味をもつことが、自分について考える機会になる。

(企業人事、小学生の保護者)

子どもの保護者面談で、先生から先生自身のキャリア相談をされた。先生も自分の働き方に疑問を感じているのではないか。

自分は何者なのか、好きなこと・嫌いなことは何か、といった自己認識は大人にも必要だと思った。

(学校へ教材提供、現在産休中)

現場の声から、学習を促すのは、教材の力よりも本人のモチベーションをどうマネジメントできるかが大きいように感じる。

また、自分は「社会ってどんなの?」を知りたくて就職した。働く前に社会を知る機会として、企業と先生・学校が関わる場を増やしたい。

(公立小学校の先生)

「自己選択・自己決定」を大事にしている。例えば、漢字練習でも1年間で伸びたも思う子は、自分でテストしたり、同じ漢字で違う言葉をつくったりするなどアレンジして学習していた。

新しい教育を進めるには、大人が自分の受けた教育をどう忘れられるかといった自覚的なアンラーニングが必要になると感じている。

4 編集後記

「学校は学習するところ、卒業したら社会に出て働く」という学校と仕事の垣根がなくなりつつあります。学習がインプットで仕事がアウトプットなら、豊かな学びとは、その間を自分なりに意味付けして繋げるという作業なのかもしれません。

また、学習は仕事のため(相手のため)だけでなく、自分の内側を豊かにするという個人的な意味も持っているように思います。イベントで皆さんのお話を聞いて、相手も自分も幸せになる学びの姿を探し続けたいと思いました。
(EDUPEDIA編集部 大和信治)

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