地域に開かれた島の教育の仕組み~大島中学校座談会~

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目次

1 はじめに

この記事は、山口県東部にある瀬戸内の島・周防大島で株式会社ジブンノオトを立ち上げ、島でのキャリア教育等に携わっている大野圭司さんへの取材をもとに執筆した連載記事(全4回)の第4回です。

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第1回
第2回
第3回

第4回では、周防大島町立大島中学校での総合的な学習の時間の後に行われた、大野さん、佐伯校長先生、コーディネーターの川辺先生、島の養蜂家の笠原さんとの座談会の内容をご紹介します。

2 座談会

学校の体制について

大島中学校と大野さんはどのような関係を持っているのですか?

佐伯校長:大野さんは、平成26年度から平成28年度の三年間、周防大島町教育委員会のコミュニティ・スクール・スーパーバイザーとして、島内の小中学校にコミュニティ・スクールをしっかりと浸透させるために動かれていました。現在も、各小中学校の管理職とつながっておられます。

各学校で同じ授業をするのでは意味がないので、学校ごとに地域の特性に合わせた学習をしています。大島中学校では今日のように授業をしてもらっていますし、島内の別の学校では起業体験学習を大野さんとともに作っています。また別の学校では、民泊体験学習の事前・事後学習の講師として大野さんに指導してもらっています。どの学校でも彼から知恵をもらっています。

大野さん:私も、各学校の先生方や生徒から勉強させてもらっています。

佐伯校長:大野さんは島以外でも大学や県などとつながりがあるので、そこで得た情報を島に還元してもらっています。

外部の人に学校に入ってもらうにあたって注意していることはありますか。

佐伯校長:必要な保険や交通費等の整備は行政でやってもらっています。

またトラブルが起こるとそれまでの取り組みがすべて水の泡になってしまうので、トラブル対策として学校と教育委員会にそれぞれコーディネーターを配置しています。お互いワンクッション必要ですからね。

大野さん:周防大島町教育委員会のありがたいところは、学校にコーディネーターの先生がいらっしゃることで、私は総合的な学習の時間のキャリア教育の部分に専念し、地域の方や起業家の方を連れて来られるところです。なかなか一般の中学校でこのようなことは許してもらえません。これは周防大島の教育のすごいところです。

コーディネートで大変なことはありますか。

川辺先生:私が本校でコーディネーターを担当しているのですが、最初は少し不安や抵抗感がありました。ただ偶然大野さんと元から知り合いだったので、大野さんの強い想いを聞いて、子どもたちにとっては教員ではなく地域の方から教わることもたくさんあるのだと気づき、とても良い企画だと感じるようになりました。

大野さん:元々このようなつながりがあるのは地元の強みですよね(笑)

佐伯校長:中学校の年間総授業1015時間の中で、どのように時間調整を行うかが難しいです。

例えば、地域との協働による授業づくりへの理解が得られていない教員から、大野さんに取られる時間が多すぎだと言われる可能性もあります。だから本校に新しく来た先生方への最初の研修が課題です。新しく来た先生に「うちの学校ではこのようなキャリア教育をしています」とプレゼンすることが必要です。大野さんの場合は私が説明する前に教員とつながっていたりしますけどね(笑)

大野さん:校長先生の知らないところで、川辺先生とスマホでメールのやりとりをしながら、授業や打ち合わせの日程調整もしています。

川辺先生:もちろん大野さんの授業は月に1回くらいで、それだけが総合的な学習の時間ではないので、それ以外の授業とうまく合わせながらやっています。

佐伯校長:大野さんの授業と、既存の総合的な学習の時間をなるべくつなげたいと思っています。大野さんには1年生の職場見学とiPadによるプレゼンテーションをサポートしていただいています。その経験を活かし、2年生での職場体験を充実させて地域に向けて発表しています。1年生たちは先輩たちの職場体験の様子を学習することで、キャリア教育へのモチベーションアップにつながっていると思います。そして、3年生は体験に基づいて進路を考えます。

授業について

今日の授業に関して、テーマやグループはどのように決めたのですか。

川辺先生:今年島おこしをテーマにすることは大野さんと校長と3人で考えました。島おこしの中でどの分野をテーマにするかは、大野さんにも案をもらって職員会議で決めました。最初は12項目ありましたが、全部やるのは難しいだろうということで、ハローワークで来ていただいた方々の分野に合わせて6つに絞りました。

佐伯校長:ハローワークというのは、校内で11月に1・2年生向けに行われた、様々な分野で働いている島の方々に講演していただくイベントのことです。今日来ていただいている養蜂家の笠原さんにも講演していただきました。

川辺先生:グループに関しては、1年生はハローワークで話を聞いた分野のグループに入るようにしています。3年生はリーダーになれる人を班に1人は入れるようにしました。

佐伯校長:人間関係の配慮もあります。ここは担任や教員が気を遣うところです。人間関係を壊してしまっては意味がありませんからね。

川辺先生:それが嫌で行きたくないとは言われたくないですからね。楽しく話し合いができるように上手く調整しています。

プリントの写真を撮ってテレビに映すという方法は、導入が簡単で非常に良いと感じました。パワーポイントなどのソフトは使わないのですか?

川辺先生:今日の授業は2時間という限られた時間の中で発表まで持っていくため、このような形式にしてみました。他の授業ではiPadに付属している「keynote」というプレゼン用のアプリを使って、職場体験で学んだことを4枚程度のスライドにまとめるという活動もしています。

iPadはいつから導入したのですか?

佐伯校長:1クラス分の台数が揃ったのは去年です。1人1台を目指しているのですが、まだ実現はしていません。

教員がICT機器を使いこなす力も大事になってくるでしょうね。昨年本校にいらした理科の先生は、その場でアンケートをとったり、iPadで小テストをしてリアルタイムで正答率を出したりと、使いこなしておられました。

大野さん:来年のこの授業でも、プレゼンに対する投票をiPadで行い自動集計できたらいいなという話をしています。もうすこし台数がほしいところですが(笑)

周防大島町の小中学校には1人ずつ「ICTプロモーター」という立場の教員が置かれていて、研修を受けたりしています。

佐伯校長:教育委員会主導で、校長会議をWEB会議にしたこともありました。周防大島ではICTを取り入れていく動きが大きいですね。

地域について

笠原さんはほぼボランティアで継続的に学校に関わっていらっしゃいますが、やりがいはどこにあるのですか?

笠原さん:私が子どもの頃は、地域の大人の人と関わる機会がほとんどありませんでした。今の学校は地域に開かれているので、子どもたちの役に立つなら、どんどん参加して自分の経験を伝えていきたいという気持ちがあります。

私はこの島の出身ではないのですが、ここでずっと暮らしていくと決めたので、子どもたちにこの島を好きになってもらい、島に何かの可能性を感じてもらえたらと思っています。自分の「島が好き」という気持ちを伝えたいです。高校の時の同級生に周防大島出身の子がいたのですが、あまり島のことをよく思っていなくて、外に出たいという気持ちの方が強いように感じました。しかし自分が実際に住んでみると、やはりとてもいい場所なので、子どもたちにも将来的には島に戻ってきたりしてほしいな、とは思いますね。

自分自身も周防大島で子育てをしているのですが、子どもが通うことになる小学校もいつ統廃合されるか分からないような状況です。子どもたちのために学校を残していきたいという思いもあります。母校がなくなるというのはとても寂しいことなので、たとえ小学校が残らなかったとしても、自分たちはこういうことをやってきたけど残せなかったという方が、子どもたちに示しがつくと思います。そのためにも、自分にやれることは積極的にやっていきたいですね。

なぜ周防大島に住もうと思ったのですか?

笠原さん人の魅力ですね。大野さんもそうですが、島の人たちと関われば関わるほど、惹きつけられるものが多いと感じます。本当は地元に戻ろうと思っていたのですが、「この島じゃないといけない」という気持ちに変わってきたのです。その後に、この島でどうやって起業していくか考え始めました。周防大島でなければ、地元に戻って養蜂業をしていたと思います。

大野さん周防大島という大きな船に乗っている感覚があります。「絶対に島へ帰って来いよ!」というつもりはありませんが、周防大島という船の乗組員になる人材、あわよくば船長になって引っ張っていく人材が学校で育つといいなと思っています。

ありがとうございました。

3 プロフィール

大野圭司さん


1978年、山口県周防大島町(旧東和町)伊保田生まれ。油田中学校業後、広島県の崇徳高校から大阪芸術大学環境デザイン学科へ進学。建設コンサルティング(大阪)、Webコンサルティング会社(東京)、Webデザイナー(フリーランス)などでの武者修行を経て2004年7月に帰郷。2005年2月フリーペーパー「島スタイル」を創刊し、2006年から社会人対象の起業家養成講座「島スクエア」(文部科学省助成認可事業)の立ち上げに携わり、2008年から2012年までコーディネーターとして運営にも参画。並行して2009年より、周防大島町立東和中学校などで「コミュニティ・スクール」を展開し、2014年~2016年まで周防大島町教育委員会にて同スクールスーパーバイザーを務め「キャリア教育」の浸透に尽力する。2013年、株式会社ジブンノオトを設立し、代表取締役に就任。キャリア教育デザイナーとして、引き続いて「島おこし」に奔走しながら、島外においても次世代起業家教育に積極的に関わっている。2015年、経済産業省中小企業庁「地域活性100(人を育てる)」選定。2018年、同「創業機運醸成賞」受賞。4児の父。

笠原さん


大学時代、アルバイト先のレストランで料理に目覚める。大学4年時に調理の専門学校に平行して通い、調理師免許を取得する。
卒業後、グランドハイアット福岡へ入社。宴会調理部で結婚式の料理などに携わり、食への意識が変わる。
本当に大事なのは安さなのか?と疑問に感じ、安心した食を提供したいと思い、結婚を機に、両親が営む養蜂業をすることを決め、
山口県周防大島町に2010年3月にIターン。
1年間、両親に養蜂の基礎を学び、2011年4月に独立。
2016年4月にショップ&カフェ、KASAHARA HONEYをオープン。
2017年8月に法人化し、養蜂業、そして島の自然を次の世代に繋いでいけるよう、竹林整備、植樹を行う、花づくりから始める養蜂場となっている。

佐伯校長先生

平成27年度から29年度まで在職。
平成30年度からは福江先生が校長に就任。

川辺先生

平成29年度から大島中学校でコミュニティスクールを担当。

4 編集後記

大野さんだけでなく学校の先生方や地域の方々にも島と教育に対する熱い想いがあるからこそ、このような取り組みが可能になるのだということを実感しました。学校の内外を問わず地域を大事にしている人々をうまく巻き込むことが重要なのだと思います。今後の周防大島がとても楽しみになるような取材でした。

(取材・編集:EDUPEDIA編集部 平原由羽、中澤歩)

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