誰でもできる!「視写」と「音読」のシンプル授業(【教育技術×EDUPEDIA】スペシャル・インタビュー第13回 北村直也先生)

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目次

1 はじめに

本記事は、雑誌『教育技術』(小学館)とEDUPEDIAのコラボ企画として行われた、北村直也先生へのインタビューを記事化したものです。
 小学校教員として長年勤務され、現在は大阪府寝屋川市で新任指導にあたられ、また、各種教育セミナー等で教育アドバイザーとして活躍されておられる北村先生に、どんな学級でも使える国語授業の基本、「シンプル授業」について伺いました。

『小一教育技術』~『小六教育技術』12月号にもインタビュー記事が載っていますので、そちらも合わせてご覧ください。
教育技術.net

2 インタビュー

①「シンプル授業」とは

国語科における「シンプル授業」とはどんな授業ですか?

「シンプル授業」は、「授業」をあまり難しく考えすぎず、どんな子でも参加できて楽しめるものを目指しています。具体的には、「音読」と「視写」を柱にしつつ、読み取りをさせて自分の考えを深めさせます。また、「言葉の力(語彙力、文法力、読解力、作文力、話す力、聞く力)」を身につけさせます。

国語の「授業」には、大きく分けて2つの形があると思います。

1つはステップアップ授業です。毎日行う通常の授業で、言葉の力をコツコツつけていきます。

もう1つはジャンプアップ授業です。これは普段より、じっくり時間をかけて準備をし、子どもたちの成長なども細やかに見て、支援していく授業です。子どもたちも大きく伸びます。公開研究授業などで行われる場合が多いと思います。

授業としては、ステップアップ授業の時間が一番多いと思います。しかし、日々の忙しい仕事の中、ステップアップ授業でじっくりと言葉の力をつけることは難しいのではないでしょうか。セミナーなどで「1時間の国語の授業が終わって、子どもたちに語彙力がついていますか?」と聞くことがあります。自信をもって「ついている」と答える先生は、少ないです。

今回の新刊『国語力を高める音読と視写のシンプル授業』では、普段の国語の授業をよりシンプルにし、語彙力だけではなく、文法力、読解力、作文力、話す力、聞く力をつけるコツをまとめました。

「シンプル授業」の着想はどこから得られたのですか?

日本が開国して近代学校制度が始まったとき、寺子屋というベースがあったため義務教育が一気に普及しました。その寺子屋で重視されていたのが、読むこと(音読)、書くこと(視写)、そして意味を理解すること(読解)でした。そこでは、子どもたちは一人ひとり大切にされながら、丁寧に育てられていました。つまり、シンプル授業は、まったく新しいやり方というわけではありません。言葉の力をつけながら、楽しく学べる国語の授業は、昔からある日本の伝統的な教育方法です。

寺子屋の歴史は平安時代の末から始まっていますから、1000年以上もの間、日本人は「視写」や「音読」を大切にしながら、言葉の力を身につけてきたのです。近頃は、思考力や表現力、創造力を育成する教育が中心ですが、それらの元になる「言語学習の根本に、今一度立ち戻りませんか?」 それに加え、「子どもと一緒に楽しみませんか?」 というのが私の提案です。

②「視写」のコツ

シンプル授業を実践する際のコツを教えてください。

シンプル授業の最も大切な柱には「音読」と「視写」があります。

「視写」の基本は、意味を考えながら、文節ごとに覚えつつ、先生が書く板書の文章を写すことです。このとき、先生の体全体から出る、意味を考えながら書いていく知的な感覚や雰囲気を、子どもは学んでいきます。

人は何かを学ぶとき、誰かの真似をし、それを吸収して成長していくことが多いと思います。だとしたら、「意味を考え」「文節ごとに覚えよう」としながら、「ていねいに」「きちんと」黒板に視写していく先生の姿を見る子どもたちは、先生をモデルにして成長していくと思います。

やり方をこと細かに教えるのではなく、先生自身の姿を授業の中で見せてそれを継続することで、子どもたちも真似をしていくということでしょうか?

はい、その通りです。「主体性を尊重する」ということを掲げて子どもたちに任せる教育方法があります。では、任された子どもは必要とされるスキルや情緒的なものをいったい誰から学ぶのでしょうか?

先生が、ある程度子どもにスキルや情緒的なものを教えないといけないということですか?

いや、私はある程度どころか、その基本をきちんと教えないと主体性は培われにくいと思います。先生の学び方を子どもが自分の中に取り込んでいくことが、主体性を自ら作っていくために重要だと思うからです。

今の主体性教育の問題点は、基本が身につかないうちから無理やり引っ張り出そうとしているところにあります。引っ張り出すことだけを考えるのではなくて、子どもたちが元々持っているものをより大きく育てるために一度モデルを取り込ませ、そこで自分なりに消化してもらうのが大切だと思っています。

先生方には、視写や音読を子どもたちと一緒にしていく中で、自分はモデルになっているのだということを意識していただきたいですね。

③「音読」のコツ

もう1つの柱、「音読」についてはいかがでしょうか。

先生方は、よく宿題で音読を出されると思います。そのとき、子どもたちはまだスラスラ音読できない状態ではないでしょうか。クラスの子どもたち全員が全員、はじめから音読できるわけではありません。そうなると、読めない子にとっては大変で辛いものになってしまうことも多いと思います。ですから、私は基本的には学校で読めるようにしてあげてから、宿題に出すべきだと思います。

学校で「読めるようにする」手法として、ある単元に入る前の2週間を活用する方法があります。まず初めの1週間で、その作品を10分間ずつ練習していきます。朝の会・終わりの会などで10分間程度繰り返して音読すると、子どもたちはある程度慣れていきます。1週間くらいでだいたい読めるようになったら、次の1週間では「ここからここまで読んできて」と少しずつ宿題に出していくのです。

視写や音読でクラス全員を巻き込むためのコツはありますか?

子どもたちに「自分もできる」という自信をつける場を設けてあげることだと思います。

例えば、授業の中で、誰でも音読できる機会を作ることです。短いセンテンスを、席の順番に当てていき、音読してもらいます。ワンフレーズです。誰でも読めます。読むことや発言することに苦手意識を持っている子にとっては、こうした経験は大きな自信になります。

それでも、どうしても声の小さい子もいます。それはそれで「無理をさせない」ことが必要だと思います。低学年の場合には「あの子だけ声が小さくていいのは贔屓(ひいき)だ」と他の子から見られてしまう場合があります。その場合には、「前よりも声が大きくなったね」「やろうとしてくれている気持ちが伝わってきたよ」など、先生が愛情をかけていることや、皆がクラスの仲間だということを、分からせていくことが大切だと思います。

しかし、「ここで、声を大きく出させたい。背中を押したら壁を超えられる」と判断したとき、無理をさせることもあります。しかしそれも、子どもと先生との人間関係を深めていく中で行うべきでしょう。

無理に巻き込むわけではないのですね。

先生が子どもたち一人ひとりを認めている姿を見せることは、「人が人を大事にするとはこういうことだ」というのを具体的に見せているわけですから、最高の教育ではないでしょうか。

それがなくて、自尊感情は育っていかないと思います。

今、世間で考えられている「自尊感情」は、自分にとって得か損かが基準になっているものも多くあるように感じます。本当の自尊感情は、他者が他者を大事にしているのを見ながら育っていくものです。自分が大事にされるだけでなく、人を大事にするということを目にして学んでいくのです。それを実際に見せるわけですから、先生の理想の姿は「お坊さん」とも言えますね。(笑)

④信頼関係の作り方

子どもたちとの信頼関係の築き方について、もう少し教えていただけますか。

一番大切なのは、アイコンタクトだと考えています。

朝の出席確認をするときに、子どもたちの目を見て「〇〇さん」と言うと、「はい」と目と目がぱっと合いますよね。目と目が合ったときに、「今日は元気かな」「元気でいてね」と先生が心の中で思うことが大切です。

先生が自分のことを思ってくれているというのは、子どもの心に本当に響きます。朝の出席確認を子どもにやらせる先生もいます。それはそれで、目的を持ってそうしておられるのでしょう。しかし、信頼関係を作る機会として、また、子どもの状況を知る機会として活用しないのはもったいないと思います。

出席確認のときに、子どもが目を背けるようなことがあれば「家で何かあったのかな」「友だちと何かあったのかな」と分かるでしょう。「何かあったの?」と聞けば、「ううん」と答えたとしても、子どもには先生が分かってくれている、心配してくれているということが伝わります。

つまり、「あなたが大事なんだ」という気持ちが子どもの心に飛び込んで、初めて人が人として自分の存在を自覚できると思うのです。

授業中の指名などでも「君のことをちゃんと見ているんだよ」というメッセージは伝わるものなのでしょうか?

はい、伝わると思っています。

先ほども言いましたが、音読で短いセンテンスを読んでいくときや、答えやすい質問をするとき、私は席順で順番に当てていくことを多用します。◇◇さん、△△さん、と順番に当てていく中で、朝の出席確認と同じことができるのです。

当てられた子が一生懸命音読して「あー、緊張したなあ」と思っているところに、アイコンタクトで「いいよ」「よかったよ」と伝えるのです。音読の声が小さくても同じです。朝の出席確認と授業中を合わせると、1日に何回もメッセージを伝える場面を子どもとの間で作っていくことができます。

⑤おわりに

最後に、現場の先生方にメッセージをお願いします。

今は、本当に大変な時代だと思います。英語、ICT、食育、キャリア教育など次から次へと新しい教育内容・方法が入ってくる中で、子どもたちの学力を上げていかなければなりません。それに加えて、生き抜く力も育てていかなければなりません。その教育現場を支えておられるのは先生方です。

学校というものが存在せず、子どもたちの「学び」がなければ、日本という国はすぐにボロボロになって崩壊してしまうでしょう。先生方は社会一般の人が思っている以上に大切で重要な仕事をしているのです。日本の国の未来は、先生方が作っていると言っても過言ではないと思います。不遜な言い方で申し訳ないのですが、それを自覚して頂けたらと思っています。そして、ご自分のお仕事に誇りを持って頂きたいです。先生とは、多くの人々を幸せにしていく最前線のお仕事なのですから。

そのための1つの教育メソッドとして、「シンプル授業」を参考にして頂けましたら幸いです。

3 プロフィール

北村直也(きたむらなおや)先生

大阪府寝屋川市で小学校教諭を経験後、指導主事、教頭、校長を歴任。「言葉の力‐視写・音読」「音読とオペレッタ」「シンプル授業」等の指導法を研究・開発。国語教育、表現教育、授業づくりの研修講座、講演を各地で行う。教育書・雑誌に共著、執筆多数。

4 著書紹介

5 編集後記

音読を国語の授業に取り入れている先生は非常に多いと思いますが、単元学習に入る前に音読することで、「読めるようにしてから」宿題に出すというのは目から鱗でした。生徒との信頼関係の作り方についても分かりやすくお話頂いたので、ぜひ参考にしていただければと思います。

(取材・編集:EDUPEDIA編集部 加藤舞、中澤歩)

6 関連ページ

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『小一教育技術』~『小六教育技術』12月号に掲載のインタビュー記事も合わせてご覧ください。

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【教育技術×EDUPEDIAコラボ】スペシャルインタビュー

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