「増補新版 教育とはなんだ」 重松清 編著 (ちくま文庫)

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 学校や教育について、世の中のだれもが語りたい「何か」を持っているようです。なぜなら、ほとんどすべての人が何かしらの学校体験を持ち、その中で何人かの教師と出会い、ある人は感化され、また反発し、良い思い出も良くない思い出もひっくるめて「何か」語ろうとするからでしょう。
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 だからこそ、教育問題を話し合おうとするとそれが家庭のレベルでも政府の審議会のレベルでも、なんだかちぐはぐな議論になりかねないのです。自分の経験や立場に照らして語り始めたらそれこそ百人いたら百通りの教育論が繰り広げられてしまうのだから。そして不幸にもその考え方の違いや対立というのは、大きな溝となってなかなか越えられないものとなってしまいます。
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 この本は作家の重松清氏(早稲田大学教育学部卒)が、各界の知識人にインタビューし、教育について語り合う内容です。哲学者あり、英語教育のベテランあり、給食の専門家あり・・・。20名ほどの登場人物が自分の立場から持論をぶつけています。重松氏は素晴らしい聞き手。そのそれぞれをうまくすくい取り、そこから「教育」というものの輪郭をかすかに浮き立たせてくれます。そして、いかに普段私たちが、教育を自分の都合のよい一面からしか見ていないかということを気づかせてくれるのです。
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 増補版になって加えられた寺脇研氏へのインタビューを読めば、ゆとり教育の旗振り役として批判を一手にあびていた氏が、どんな思いでそのかじ取りをしていたかが伺えるでしょう。そこにはきっと世間にはちゃんと知られなかった、また誤解されていた彼の思いが見え隠れしています。
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 私たちは教育について日々あれこれ語っているのにもかかわらず、知らないことが多すぎるのかもしれません。それはベテラン教師であっても、またたくさんの子を育てた親であっても、大学の教授であっても同じことなのでしょう。
それぞれがその自覚をもって子どもと向き合い、教育について考え続けること。そういったシンプルではあるが、最も大事な謙虚さのようなものを思い出させてくれる内容の本です。
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1 教育論とはなんだ(教育論—「教育」の語り方を変えてみないか 苅谷剛彦氏に聞く)
2 授業とはなんだ(英語—学校英語は敗北したか? 東後勝明氏に聞く/数学—「わからない」からこそ、「わかる」が深くなる 新井紀子氏に聞く ほか)
3 学校とは何だ(学校改革—すべての場所に学びの共同体を 佐藤学氏に聞く/民間人校長—「世間」と「よのなか」が向き合うとき 藤原和博氏に聞く ほか)
4 教育の隙間とはなんだ(保健室—さまよえる保健室 山田真氏に聞く/給食—食べる力は生きる力 雨宮正子氏に聞く ほか)
5 教師とはなんだ(教員免許—教師はいかにして誕生するか 小貫輝雄氏に聞く/教員室—教師はいかにして疲れてしまうか 諸富祥彦氏に聞く ほか)
6 卒業後に待つものとはなんだ(就職—「夢」がリアルを覆い隠す 玄田有史氏に聞く)

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