学級づくり4月の戦略(前半)

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目次

1 概要

学力低下と社会性の向上という2大課題を、「集団づくり」によって解決する方法を紹介しています。なぜ集団づくりが大切なのかを確認した上で、学級を良い集団にするために、4月にどのような戦略をとるべきかを考えていきます。

2 目次

  1.  2つの重点課題とは何か
  2.  2大課題を解決するための「集団づくり」
  3.  成果をあげる集団とはチームである
  4.  「土壌づくり」の必要性

3  2つの重点課題とは何か

現在、公立学校には2つの重要な課題があります。1つ目の課題は学力低下問題です。2000年と2003年のPISA調査を比較して明らかになったのは、日本の児童のうち学力上位層の成績は下がっていないが、下位層の成績が大幅に下がっているということです。これはつまり学力格差が存在しているということを示しています。さらに「就学援助制度を受けている児童生徒の割合」と「国語、算数・数学の正当数」には、負の相関があることも明らかになりました。ここには学力格差が再生産されている実情が現れています。
2つ目の課題は児童たちの「かかわる意欲」の低下です。河村茂雄『データが語る子どもの実態』(図書文化社、2007年)によれば、「人間関係づくりに強い意欲をもつ」児童は全体の半数を切っており、その代わりに自分と気の合う友達が2、3人いれば満足する児童が多くなっています。このことが今の学級づくりを難しくしています。
以上の2つの課題に共通するのは、児童の意欲、やる気が欠けてきているということです。勉強は大切だと思っていても、好きではない。進んで友達をつくろうとは思わない。学習への意欲、人間関係づくりへの意欲が損なわれているのが今の状況なのです。

4  2大課題を解決するための「集団づくり」

意欲の低下による学力低下と、かかわる意欲の低下。これらの課題を解決するにはどうしたら良いでしょうか。そのヒントが大阪府のE小学校にあります。E小学校に通う児童の家庭のうち、単身家庭が2割超、就学援助家庭が35%を占めており、厳しい生活状況が伺えます。しかし、E小学校は学力向上で目覚ましい成果をあげています。「効果的な学校(effective school)」と言われるE小学校が教科学習、総合学習の基盤としたのが、「話の聞き方」とそれに基づく「集団づくり」、仲間づくりでした(志水宏吉『学力を育てる』岩波新書、2005年より)。

なぜ「集団づくり」が効果的な方法となるのでしょう。ダニエル・キムによる組織の循環成功モデルによれば、仕事の成功は関係性にあります。

良好な関係が良い思考、良い行動を生み、それが良いパフォーマンスにつながるのです。そもそも人間の学びは共同作業や真似から起こります。つまり、まず他者との関わりがあって、人間の発達、学びがなされるのです。人は人の中で発達します。だからこそ、つながる力の育成が生産性を向上させます。学校において「集団づくり」をするという戦略をとることが、学力向上と社会性の向上という問題の解決に対する有効な手だてになるのです。

5 成果をあげる集団とはチームである

2つの重点課題を解決する手段として、「集団づくり」が力をもちます。ではさらに、「集団づくり」においてどのような集団を目指すべきなのかを考えます。ここで注意しておきたいことは、「集団づくり」の核は「人間関係づくり」ではなく、あくまで「成果をあげるための」「集団づくり」だ、ということです。

成果をあげる集団とは何でしょうか。それは「チーム」です。いま私たちが考えている

「集団づくり」には、「チームづくり」の側面がとても大事になります。バラバラな個性の集まりの中で、共通点を見つけともに歩んでいく力を育むこと、これが学級経営に求められているのです。

「チーム」とは何かを明確にするために、「チーム」と「グループ」とは何が違うかを検討してみると、以下の表のようになります。

この表から分かるように、チームには「協働の意志」があります。そのため、放っておいても決してチームになることはありません。辞書的な「チーム」の意味は「同一の仕事に従事する一団の人」というものです。これに加えて「協働の意志」の存在を考えれば、「チーム」とは「①一人ではできない課題を、②協力して、③解決する集団」と、定義できます。

学級経営において目指すクラスはチーム、「課題解決集団」です。「課題解決集団」は「仲良し集団」の上に成り立っているので、「まず仲良し集団を目指す」という方法論もありえます。しかし、オリンピックで銀メダルや銅メダルを取る選手はもともと金メダルを目指していたからこそ、結果として2位や3位に入ることができるのです。エベレストに登る装備があれば、富士山に登ることができます。高みを目指せばその途中経過も得ることができるのです。だからこそ「仲良し集団」ではなく、「課題解決集団」という高みを目指していきましょう。

6 「土壌づくり」の必要性

「人間関係づくり」だけをやっていても、クラスは「仲良し集団」にしかなりません。「課題解決集団」を目指すためには、良質な「チーム体験」を児童に積ませるしかないのです。「人間関係づくり」はそのような「チーム体験」をするために行うのだ、という発想に立つことが必要です。

「チーム体験」のための「人間関係づくり」を行うために、学校に「土壌づくり」をする必要があります。学校はこれまで生徒に「チーム体験」を与えてきました。運動会をはじめ、共通の目的に向かって一人ではできないことを成し遂げる体験をする機会がありました。子どもがつながっていた時代は、そのような行事で児童生徒が育つことができたのです。しかし、現在の状況ではそのような行事に充てられる時間が削られています。そのため児童がチーム体験をする機会も減っているのです。だからこそ、まず子どもたちが「みんなっていいな」という感覚を育むための「土壌づくり」が必要です。

編集後記

「成果を出すための集団づくり」という赤坂先生のスタンスは非常に実践的なものだと感じました。学力向上と関わる意欲の増加という明確な目標を設定した上で、大阪の小学校のケースやMITのダニエル・キム教授の組織論を援用しながら「集団づくり」という方法を提案するやり方は説得力に富んでいます。「学級づくり」がテーマでしたが、様々な状況に応用できると思います。
(編集・文責:EDUPEDIA編集部 杉山昂平)

講師プロフィール

赤坂 真二

上越教育大学 教職大学院 学校教育専攻科 教育実践高度化専攻 准教授
著書に
『スペシャリスト直伝!学級づくり成功の極意』(明治図書出版、2011年)
『「気になる子」のいるクラスがまとまる方法!』(学陽書房、2011年)
『先生のためのアドラー心理学—勇気づけの学級づくり』(ほんの森出版、2010年)
ほか、多数

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